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PubMedID 30911187 Journal Nat Struct Mol Biol, 2019 Apr;26(4);289-296,
Title Evolution from covalent conjugation to non-covalent interaction in the ubiquitin-like ATG12 system.
Author Pang Y, Yamamoto H, ..., Jia H, Mizushima N
東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 分子生物学  水島研究室    山本 林     2019/04/14

ユビキチン様ATG12結合システムの退縮進化
先日掲載された我々の論文について紹介させて頂きます。
オートファゴソーム形成過程には2つのユビキチン様結合システム(ATG8/LC3結合システムとATG12結合システム)が関与しており、どちらのシステムも進化的に広く保存されています。みなさんもご存じのようにATG8/LC3はタンパク質ではなくリン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)と共有結合するというユニークな特徴を持っていますが、ATG12もちょっと変わっていて、ATG5というたった1種類のタンパク質を基質とし、さらに他のユビキチン様結合システムで見られるような脱結合もありません。なぜATG12はATG5と共有結合体を形成するのか。
我々はATG12結合システムの進化に興味を持ち、ATG12配列解析を行ってみたところ、マラリアやトキソプラズマなどのアピコンプレックス門原虫、さらにペキソファジーの解析でよく使われるコマガタエラ属酵母 Komagataella phaffii (いわゆるピキアです、Pichia pastorisから学名が変わりました)のATG12は共有結合反応に必須のC末端グリシンを失っていることが分かりました(ピキアではセリンに変異)。また、これらの生物種はATG5を持っていますが、共有結合反応に必須のE2酵素ATG10を失っていました(ATG10遺伝子の欠失)。実際に、マラリア、トキソプラズマ、ピキアを培養して調べてみると、これらの生物種ではATG12とATG5は共有結合しないことが示され、代わりにATG12-ATG5複合体を安定に形成していることが分かりました。トキソプラズマのATG12-ATG5複合体をリコンビナントで用意してin vitroでのATG8-PE形成反応に加えたところ、ATG12-ATG5複合体がE3様活性を持っていることが示され、さらにATG12-ATG5相互作用を壊すような変異を導入するとオートファジー活性がなくなることがピキアを使ったin vivo解析で示されました。これらの結果は、マラリア、トキソプラズマ、ピキアではATG12結合システムがcovalent conjugationから簡便なnon-covalent interactionに退縮進化していることを示しています。
進化系統樹を見てみるとこの退縮進化はATG10遺伝子の欠失、ATG12のC末端グリシン変異・欠失の順番で少なくとも2回、アピコンプレックス門とコマガタエラ属で独立して起こっています(おそらくATG10遺伝子欠失の前にATG12-ATG5相互作用面の獲得)。1998年にATG12結合システムが発見されて以来、なぜATG12はATG5と共有結合する必要があるのか謎でしたが、その答えは「条件が整えば必要なくなる」ということのようです。
本研究は中国農業科学院ハルビン獣医研究所のHonglin Jia准教授、京都大学大学院農学研究科の阪井康能教授、 微生物化学研究会の野田展生部長、長崎大学大学院熱帯医学グローバルヘルス研究科の北潔教授のグループとの共同研究です。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局