PubMedID |
31196886 |
Journal |
EMBO J, 2019 Jun 13; [Epub ahead of print] |
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Title |
MITOL prevents ER stress-induced apoptosis by IRE1α ubiquitylation at ER-mitochondria contact sites. |
Author |
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東京薬科大学生命科学部、分子生化学研究室 柳茂研 武田啓祐 2019/06/16
MITOLはMAMにおいてIRE1αを制御して小胞体ストレス応答を調節
EMBO Journal誌に掲載されました私たちの研究成果を紹介します。
私たちはこれまでにミトコンドリア外膜を4回貫通する膜型のE3ユビキチンリガーゼMITOLを同定し(EMBO J 2006)、MITOLがミトコンドリアダイナミクスの制御やミトコンドリア品質管理に関与することを報告してきました(Mol. Biol. Chem. 2009, PNAS 2012 etc)。また、MITOLはミトコンドリアと小胞体の接触場(MAM)に豊富に存在し、MAMの繋留因子であるMitofusin2を基質にしてMAM形成を促進することを示しました(Mol. Cell 2013)。近年、MAMは効率的なカルシウムの受け渡しや脂質代謝のみならず、オートファージーや自然免疫応答など様々なシグナル発信のプラットフォームとして機能していることが報告されており、その生理的重要性が注目されています。今回、MAMにおけるMITOLの新たな基質を探索したところ、小胞体ストレスのセンサー分子であるIRE1αが同定されました。IRE1αはキナーゼ活性とエンドヌクレアーゼ活性を有するユニークな酵素で、小胞体に異常なタンパク質が蓄積して小胞体ストレスが惹起されるとIRE1αはXBP1をスプライシングして細胞生存のシグナルを発します。ところが、小胞体ストレスが持続したり、増悪したりするとIRE1αはオリゴマーを形成して過剰なエンドヌクレアーゼ活性によりアポトーシスを誘導することが知られていました。しかしながらIRE1αが細胞生存から細胞死誘導へとスイッチする分子機構は不明でした。今回、私たちはMITOLがIRE1αの481番目のリジン残基をK63型のユビキチン鎖を付加することによりIRE1αのオリゴマー形成を特異的に阻害してアポトーシスのシグナルを選択的に抑制していることを明らかにしました。また、小胞体ストレスが持続するとこのユビキチン鎖がはずれ、オリゴマー化したIRE1αがアポトーシスを誘導することを示しました。このことはMITOLだけではなく脱ユビキチン化酵素が関与していることを示唆しており、この酵素の同定が今後の課題です。さらに、MAMに局在する一部のIRE1αのユビキチン化だけでなぜIRE1α全体のオリゴマー化が抑えられるのか、そのメカニズムについても不明であり今後の課題です。いづれにしてもミトコンドリアがMAMを介して小胞体ストレス応答を制御する新たな役割が明らかとなったことから、今後、神経変性疾患や糖尿病など小胞体ストレスに関連する様々な疾患において、ミトコンドリアに視点を移した新たな治療法の開発が期待されます。