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PubMedID 31271352 Journal Elife, 2019 Jul 04;
Title The autophagic membrane tether ATG2A transfers lipids between membranes.
Author Maeda S, Otomo C, Otomo T
スクリプス研究所  大友研究室    大友崇紀     2019/08/13

ヒトATG2Aは脂質転移反応をおこす
ERとオートファゴソーム前駆体である隔離膜の間に局在するATG2は隔離膜の成長に必要とされていますが、その具体的な働きは最近まで不明でした。昨年私たちは、ヒトATG2Aは2つの脂質二重膜を橋のように連結することができる棒状タンパク質であるということを発表しました。本研究では、ATG2Aが膜間を連結するのはERから隔離膜へ脂質を移動させるためではないかという、前研究により生じた仮説の検証を行いました。

蛍光ラベルされた合成リポソームを用いて ATG2A全長の精製タンパク質の脂質結合活性および脂質移送活性を調べたところ、下記の3点からなる結果が得られました。1)ATG2Aは(ドナー)リポソームから(リン)脂質分子を引き抜いて保持し、それを別の(アクセプター)リポソームへ移すことができる。2)ATG2Aが膜間を連結するにはそれぞれの膜表面に十分な不整合性が必要であるが、脂質の移動はそのような(ATG2Aにより連結されている)ドナーとアクセプターの間の方がそうでない(連結されていない)ドナーとアクセプターの間より速い。3)PI3PおよびATG2Aに結合するWIPI4やWIPI1タンパク質存在下では、ATG2AはPI3Pを含むリポソームとPI3Pを含まないリポソームの間で脂質移動を触媒できる。これらの結果とATG2の局在を考慮し、ERから隔離膜へATG2を通してリン脂質が移動することにより隔離膜は成長するというモデルを提唱しました。

昨年エール大のグループがATG2と相同性があるVPS13が脂質移送タンパク質であり、ATG2も同じような活性を持つだろうということを示唆しました。同グループは今年になってATG2Aが脂質移送活性を持つことを報告しています。すでに本フォーラムへのご紹介がありましたように、野田先生のグループも同じような結論に至った研究を発表されています。3つの論文はすこしずつ異なるデータを含むので、結果的に相補的になったと考えています。例えば、野田先生らの分裂酵母のAtg2N末端の結晶構造ではAtg2に脂質が結合する様子がはっきり確認されており、Atg2は脂質移送タンパク質であるという結論を強固にしています。ちなみに、私たちも、N末等の断片を作成し挙動が良いものを見つけようとしましたが成果がでませんでした。ネガティブ染色電顕の全長タンパク質をみると、断片化はとても無理だろうと思いやめてしまいましたが、早計だったようです。

クライオ電顕による低解像度での全長タンパク質の観察によると棒の内側は電子密度に欠けるようにみえることから、N末の結晶構造で観察された疎水性の窪みは棒状ATG2Aの端から端まで続いている可能性が高いようです。この構造知見と上記の実験結果から脂質分子がATG2Aの窪みを伝って膜間を行き来するブリッジモデルを提唱しました。ただエール大のグループが条件によってはN末のみでも脂質移動活性があると報告していることから、ATG2Aがフェリーとして行き来することも可能なのかもしれず、そのモデルも記述しました。詳細の解明はこれからです。

今後の生物学的課題は、試験管内で観測している脂質の移動は両方向である、つまりATG2が連結している2つの膜間で脂質交換反応が行われているということを理解することで浮かび上がって来ます。リポソームを用いた実験では脂質移動反応の前後で個々のリポソームの構造は変わらない、つまりそれらのエネルギー状態は変わらないと考えられるので、両方向の交換反応であるということは構造と熱力学的観点から納得できます。しかし、両方向への移送では隔離膜の拡大を説明できません。もう一点問題なのは、試験管内実験で観測された脂質移動はオートファゴソーム形成を説明するには遅すぎるようだということです。5-10分程度でオートファゴソーム1つを完成するにはATG2Aが少なくとも10万分子くらいは必要であるという計算になります。私たちのバルクの実験での速度(多数の分子の平均値)は実験系の不具合により溶液中で均一でない反応になっているかもしれず(リポソームが不均一に集合してしまうからおそらくそうでしょう)、最適な状況下にあるATG2A分子はもっと速く脂質移送を行うことができるかもしれません。

しかしその場合でも脂質移動が両方向であるかぎり、それが十分に速くなることは難しいと考えられます。試験管内のATG2Aのみによる反応が両方向で遅いという観測は、おそらく、脂質の熱運動による拡散がATG2Aを通して膜間でおこっているということを意味しているのでないでしょうか。そうであれば、これらの問題を一発で解決する一つ方法は、エネルギーを消費して能動的に脂質を一方向へ“輸送”することでしょう。ER側で起こっている事象がそれを可能にしているのではないかと推測していますが、これらの議論が妥当なのか、まったくの見当違いなのか、今後の展開がたのしみです。
   
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局