PubMedID |
31379911 |
Journal |
Front Plant Sci, 2019;935, |
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Title |
, a New Model Plant for Autophagy Studies. |
Author |
Norizuki T, Kanazawa T, ..., Tsukaya H, Ueda T |
基礎生物学研究所 細胞動態研究部門 上田研究室 法月拓也 2019/08/23
植物におけるATG遺伝子群の特徴的な多様化
初めての投稿、失礼いたします。基礎生物学研究所細胞動態研究部門(PI:上田貴志)の法月(のりづき)拓也と申します。本日は私たちが発表した論文を紹介させていただきます。
(論文のタイトルがIDからうまく変換されておりませんが、“Marchantia polymorpha, a New Model Plant for Autophagy Studies.”という論文のタイトルです。)
シロイヌナズナを含む被子植物は、有性生殖時に非運動性の雄性配偶子を形成し、花粉管を通じてこれを雌性配偶子へと運搬することで受精を行ないます。一方、コケ植物やシダ植物を含む一部の陸上植物は、運動性の鞭毛を有する雄性配偶子(精子)を形成します。私たちは現在、近年コケ植物の中でもタイ類のモデルとしての地位を確立したゼニゴケ(Bowman et al. 2017, Cell)を用いて、精子変態過程におけるオルガネラの再編成がどのように制御されているのかを研究しております。哺乳動物の精子と同様に、ゼニゴケの精子は精子変態の過程で細胞質のほとんどを捨て去り、核と2個のミトコンドリア、1個の色素体、および2本の鞭毛を有するらせん形の形態へと変態します。私たちはこれまでに、この精子変態の過程でオートファゴソーム様の構造が多数観察されることを見出しました(Minamino et al. 2017, J Plant Res.)。そこで、現在は精子変態過程においてオートファジーがどのようなはたらきを担っているのかを明らかにするべく研究を行なっております。
本論文ではその前段階として、ゼニゴケのcore ATG遺伝子の探索、並びにゼニゴケにおけるatg変異体の栄養成長期における表現型を発表しました。また、ゼニゴケを含むコケ植物は陸上植物の基部に位置するため、outgroupとしてシャジクモ(Nishiyama et al., 2018, Cell)などのATG遺伝子についても探索を行なうことで、植物の陸上化とATG遺伝子の進化の関係についての考察も行ないました。結果をまとめると以下の4点になります。
1) ゼニゴケではATG遺伝子の冗長性が非常に低い(例えばATG8に関しては、シロイヌナズナに9つのホモログが存在するのに対し、ゼニゴケには2つしか存在しない)。
2) シロイヌナズナやタバコで同定されたBCAS3 domainを有するATG18は、ゼニゴケを含む陸上植物だけでなく、一部の緑藻(Coccomyxa subellipsoidea)にも保存されている。
3) 車軸藻類に属するフラスコモ(Nitella mirabilis)やシャジクモ(Chara braunii)にはATG10遺伝子が存在しないこと、およびシャジクモにはATG12のC末端のグリシンが保存されていないことから、以前水島先生たちが報告した非共有結合型のATG5-ATG12の結合が、これらの種でも起こっている可能性がある。
4) ゼニゴケatg変異体は、シロイヌナズナを含むほかの植物のatg変異体と同様に、普段の栽培条件でも老化が亢進するとともに、飢餓に対する感受性が亢進する。
植物におけるATG8の機能分化やBCAS3 domainを有するATG18の機能に関しては未解明ではありますが、遺伝的冗長性の低いゼニゴケを用いて解析することで、これらの疑問を明らかにできるであろうと期待しております。