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PubMedID 17699586 Journal Mol Biol Cell, 2007 Aug 15; [Epub ahead of print]
Title Protein Kinase A and Sch9 Cooperatively Regulate Induction of Autophagy in Saccharomyces cerevisiae.
Author Yorimitsu T, Zaman S, Broach JR, Klionsky DJ
東京医科歯科大学  細胞生理学分野    水島昇     2007/08/23

Sch9(酵母S6K?)とオートファジー
 Torは酵母でも動物細胞でもオートファジーを抑制しますが、その関係はよくわかっていません。最近、酵母Sch9がTORC1下流で哺乳類S6Kに相当する機能を果たしているという論文がでたため(本フォーラムでも紹介)、Sch9がオートファジーを抑制しているのかどうか気になっていました。が、間髪入れずにKlionsky研から報告がありました。この論文ではSch9とPKA(以前からオートファジー制御に少し関係していることが示唆されていました)が協調的にオートファジーを抑制していることを示しています。方法は、Sch9とPKAのATP結合ポケットに特別な変異をいれ、膜透過性阻害剤(1NM-PP1)で処理したときのみこれらのキナーゼ活性を抑制するというものです。PKAとSch9活性を同時に阻害するとオートファジーが誘導されますが、その程度はラパマイシンより遙かに弱く、またラパマイシンとも相加的効果があります。したがって、Tor -> Sch9 (S6K) -> オートファジー抑制という簡単な図式ではなさそうです。また、PKAとSch9の活性阻害によるオートファジーには転写因子であるMsn2, Msn4, Rim1を介していることも示されています。総合的には、この経路が飢餓によっるダイナミックなオートファジー誘導のメイン経路ではないという印象を持ちます。
 他の生物種でもS6Kとオートファジーの関係は議論が混迷しており、オートファジーを抑制しているという説や(Blommaart et al. JBC 270:2320 (1995))、逆にオートファジー誘導に必要という説もあります(Scott et al. Dev. Cell 7:167 (2004))。動物ではS6KからIRS(インスリンシグナル因子)に強力なネガティブフィードバックループがありますので、このような簡単な機能阻害実験では結果がうまく得られない可能性があります。
   
   本文引用

1 基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門  大隅良典研  壁谷 幸子 TOR を介さないオートファジー誘導機構は存在する? 2007/08/24
 PKA とSch9 の不活性化によるオートファジー誘導は、TOR の活性に影響を及ぼしていない点では TOR-independent な経路であることは確認されます。但し、水島さんの指摘にもあるように誘導されるオートファジー活性が非常に弱いので、TOR 経路とcooperative とは言えないような気がします。TOR のターゲットがSch9 である、とするUrban らの論文との整合性や哺乳動物細胞における栄養センシング機構の類似性についてさらなる解析が望まれます。
 また、PKA とSch9 の関与するオートファジー誘導にもAtg1 complex (Atg1-Atg13-Atg17) が必要で、Atg1 キナーゼ活性もindispensable としていた点は、彼らもTOR を介した経路にもやはりAtg1 キナーゼ活性が必要だと考えているのではないか、と思いました。
      
   本文引用
2 基生研・分子細胞生物  大隅良典研  鈴木邦律 ラパマイシンで十分か? 2007/09/19
今更ですが、ひとこと。
1NM-PP1の実験を信じないわけではありませんが、もう少し丁寧な実験が望まれます。1NM-PP1感受性のmutantに1NM-PP1処理をすると、PKAやSch9の活性がどの程度落ちているのかを見積もる実験はして欲しかったです。そうすることにより、後に続く実験の結果が読みやすくなります。

まず、Figure 3Aの意図が読み取れません。pka sch9バックグラウンドでatg1, atg13, atg17を破壊株すると、1NM-PP1を加えてもオートファジーが進まない。この事実から、1-13-17複合体がpka sch9経路を介したオートファジーの誘導に必要であるとしています。1-13-17を破壊したらオートファジーが起きないのは当たり前です。1-13-17はATG遺伝子の中ではシグナリングの上流に位置すると考えられるので、議論するなら13の脱リン酸化や1のキナーゼ活性についてでしょう。Figure 3BもC24Rの活性をどう見積もるか難しく、どう評価していいか分かりません。

Figure 4Dでは、ALP assayでオートファジーの活性を見ています。ゲタを30%位はいていると考えると、TOR経路の寄与は約70%でPKA SCH9経路の寄与は約50%です。この位なら、両方の経路が並行に効いていると言ってもいいような気がします。このグラフでは活性を野生株と比較した相対活性で見ていますが、念のためassayの絶対値を知りたいところです。

我々は出芽酵母でオートファジーを誘導するのにラパマイシンを常用しています。オートファジーの解析には本当にそれで十分なのか?こうした基本的な疑問を再考する必要を感じさせる論文だと思います。
      
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