PubMedID |
17726112 |
Journal |
Proc Natl Acad Sci U S A, 2007 Aug 28; [Epub ahead of print] |
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Title |
Essential role for autophagy protein Atg7 in the maintenance of axonal homeostasis and the prevention of axonal degeneration. |
Author |
Komatsu M, Wang QJ, ..., Tanaka K, Yue Z |
順天堂大学医学部生化学第一 木南英紀研 小松雅明 2007/09/03
局所的オートファジーと神経変性
私達はマウス遺伝学的研究からオートファジーは低いレベルではあるが恒常的に起こっていること、この基底レベルのオートファジーの破綻が神経変性(特に、小脳プルキンエ細胞、大脳皮質や海馬の錐体神経細胞の変性)を引き起こすことを明らかにしてきました。しかしながら、オートファジーが止まってしまうとどのようにして神経細胞が脱落するのかは依然として不明のままでした。また、昨年報告したモデルマウス(Atg5flox/flox;nestinもしくはAtg7flox/flox;nestinマウス)は、神経幹細胞においてCreリコンビナーゼを発現するnestin-Creマウスを使用している為に、神経細胞だけでなく神経細胞の数十倍存在するグリア細胞もオートファジーが不能となることから、オートファジー不全による神経変性が神経細胞自律的に起こるのか?という大きな謎が残っていました。
これらの課題に取り組むため、私達はAtg7flox/floxマウスとPcp2-Creトランスジェニックマウスとを交配させ、Atg7flox/flox;Pcp2マウスを作製しました。Pcp2-Creマウスは、2週令以降に小脳プルキンエ細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウスですので、Atg7flox/flox;Pcp2マウスは小脳の形態形成がほぼ完了した2~3週令以降にプルキンエ細胞でのみオートファジーが不能となるマウスとなります。このマウスは、Atg7欠落後まずプルキンエ細胞軸索終末の膨大・変性が起こり、その後プルキンエ細胞脱落、最終的に運動障害に陥りました。重要なことは、Atg7欠落後かなり早い時期に軸索の膨大化が起こる一方、変異プルキンエ細胞の樹上突起や細胞体においてほとんど異常が確認されなかったことです(論文では示しませんでしたが、1年齢の変異マウスは、軸索肥大だけでなくmolecular layerの萎縮(樹上突起の萎縮)、大部分のプルキンエ細胞の脱落、歩行失調や重篤な協調運動障害が確認されます。)。膨大化した軸索内は、変形したミトコンドリアや多重膜構造体(これらの変性オルガネラはオートファジー不能肝細胞でも確認される。)で満たされていました。神経細胞はリソソームが細胞体周辺にしか存在しないことから、軸索内で形成されたオルガネラを含んだオートファゴソームは細胞体に逆行輸送されます(JCB, vol. 121, 305-315, 1993)。我々も、オートファゴソームと同定は出来ませんでしたが軸索内に二重膜構造体の存在と変異マウスでの消失を確認しました。これらのことは、軸索内のオートファジー(局所的オートファジー)が、神経細胞の恒常性維持に特に重要な役割を担っていることを強く示唆します。このマウスで確認された神経細胞の軸索肥大は、複数の神経変性疾患において観察されることから、さらにオートファジーによる病態発症予防が注目されると思われます。
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