PubMedID |
18258189 |
Journal |
FEBS Lett, 2008 Mar 5;582(5);691-8, |
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Title |
The importance of conserved amino acid residues in p94 protease sub-domain IIb and the IS2 region for constitutive autolysis. |
Author |
Ono Y, Hayashi C, ..., Tagami M, Sorimachi H |
東京都臨床医学総合研究所カルパインPT 反町洋之研 小野 弥子 2008/02/28
カルパイン、ではないふりをできるのが大事。
骨格筋特異的カルパインp94/calpain 3は、生体(骨格筋)以外での発現系においては、ほぼ例外なく急速に自己消化→消失してしまいます。この論文には、プロテアーゼの自己消化活性を酵母の転写調節因子GAL4の活性に反比例する形で検出できる”プロテアーゼトラップ法“を用いて、p94の急速な自己消化活性に寄与しているアミノ酸残基を網羅的に検索した結果をまとめました。
カル(=カルシウム依存的)パイン(=システインプロテアーゼ)とはいうものの、定常状態の細胞質内で自発的に自己消化してしまう、ほとんどカルシウム非依存的な活性(=p94の特徴)を支えている基盤は分子内のどこに存在するのか。p94特異的な挿入配列IS2内の良く保存されたアミノ酸残基が今回のスクリーニングに引っかかってきたのは、過去の実験結果and/or予想と合致するという意味で”やっぱり“でした。さらに、カルパインスーパーファミリーで良く保存されているプロテアーゼサブドメインIIbにも、p94の特徴に重要なアミノ酸残基(部位)が存在することが示唆されました。これらは、カルシウム依存的な分子種μ-及びm-カルパインにおいて、カルシウム結合に重要であることが示されている領域に対応します。
その実像はまだ明らかではないものの、p94の基質に対するプロテアーゼ活性がないと骨格筋は筋ジストロフィーと定義される状態に陥ってしまう、ということがヒトおよびマウスにおいて示されています。ヒトで筋ジストロフィーを引き起こすp94変異体の中には、自己消化活性については“カルシウム依存的”になっただけのようなものも含まれます。その意味で、自己消化することの生理的意義は不明であるにせよ、どのような条件下で活性化できるか、ということはp94の機能性と強く関係していると思います。それが、特異的な挿入配列が保存されたドメインと相互作用することによってもたらされている可能性が具体的に示された、という点は、先入観なしの網羅的なスクリーニングができる“random mutagenesis+相同組み換え in 酵母”という系の威力だと思いました。どんどんふくらむp94の構造機能相関についての予想・妄想が、立体構造が解かれた暁にはどうなるのか、楽しみでもあり不安でもあります。嬉しかったので、初投稿で自著を扱わせていただきました。