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PubMedID 17673661 Journal Science, 2007 Aug 3;317(5838);660-3,
Title Quantitative mass spectrometry identifies insulin signaling targets in C. elegans.
Author Dong MQ, Venable JD, ..., Dillin A, Yates JR
北海道大学大学院医学研究科生化学講座  畠山鎮次研究室    藤井 健吉     2008/03/01

線虫の長寿命変異体のタンパク質発現プロファイルから分解系と老化制御を考える
 長寿命線虫変異体daf-2(Dauer formation 2)は、耐性幼虫になれない変異体スクリーニングで得られたミュータントです。線虫の寿命はWT常温では21日ですが、daf-2変異体は約1.5〜2倍の長寿になります。変異体の責任遺伝子DAF-2がインスリン/IGF-1受容体相同遺伝子をコードしていたことが報告され(Kimura KD, Sciene 1997)、寿命を制御する遺伝子要因について解析の足がかりとなりました。 その後、daf-2変異体とWTとの比較から「個体寿命を延ばすのに重要な因子」が顕在化するのではないかとの仮説に基づき、GENEチップなどによる比較解析が報告されてきました。その結果、インスリン/IGF-1様シグナルはdaf-16というフォークヘッド転写因子を介して、耐性幼虫化制御、生殖・発生制御、脂質代謝、ストレス応答および寿命制御に関連する遺伝子発現のon/offを制御していることが明らかとなってきました。

 本論文では、daf-2とWTのタンパク質発現量プロファイルを定量的プロテオミクス法を用いて解析しています。その結果、daf-2変異体で存在量が変化しているタンパク質86種類を同定されました。遺伝子レベルでの発現変化せず、かつタンパク質発現に変化が生じている因子群に関しては、タンパク質分解系の変動である可能性もある(かもしれない)という印象です。daf-2変異体で発現低下しているE3を表中に見つけましたが、存在量増リストの中にそのE3ターゲットがあるかもしれません。daf-2シグナリングは、線虫、ハエ、マウス、ヒトで高度に保存されており、細胞内代謝を抑圧する条件が揃えば、個体は長寿化する余地があるということを示唆していると解釈できます。

※耐性幼虫:線虫は飢餓など環境が悪化すると、長い期間餌なしで生存可能な耐性幼虫という状態に変化する性質をもつ。耐性幼虫は脂肪を体内に蓄積してエネルギーを節約しながら、外部環境が改善されると正常発生に復帰する。たとえば、耐性幼虫期、また耐性幼虫から正常発生への復帰、など各段階にオートファジーや各種タンパク分解系の関与があるかもしれず、興味深い表現型です。
   
   本文引用

1 東京医科歯科大学  細胞生理  水島昇 オートファジーと不老長寿 2008/03/14
 この論文の変動因子リストには残念ながらオートファジー関連は見あたりませんが、daf-2 RNAiによってオートファジーは活性化されるようです(Hansen et al. (2008) PLoS Genet 4:e24)。さらにdaf-2による寿命延長効果は、オートファジー因子(Beclin、Atg12など)を同時にRNAiしておくと消失することから、オートファジーがそのエフェクターの一つかも知れない(!?)と言われています(Melendez et al. (2003) Science 301:1387-1391、Hars et al. (2007) Autophagy 3:93-95)。しかしながら、オートファジーをおこすだけでは寿命延長には不十分で、やはりdaf-16の下流のイベントが大事だろうとのことです(Hansen論文)。オートファジーと抗加齢は本当に関係するかも知れません。
 なお、ダウワーについてですが、各種オートファジー因子を抑制した線虫はダウワー幼虫形成に異常がでることが報告されています(上記Melendez論文)。
      
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Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局