PubMedID |
18316332 |
Journal |
J Biochem, 2008 Mar 3; [Epub ahead of print] |
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Title |
Human calpain 7/PalBH associates with a subset of ESCRT-III-related proteins in its N-terminal region and partly localizes to endocytic membrane compartments. |
Author |
Yorikawa C, Takaya E, ..., Shibata H, Maki M |
名古屋大学大学院生命農学研究科 牧正敏研 牧 正敏 2008/03/06
calpain 7はエンドソーム選別輸送経路に関わっている?
自分たちの投稿論文で恐縮ですが、宣伝させて頂きます。
calpain7(別名:PalBH)は、calpain superfamily に属す分子で、Aspergillus nidulans で最初に報告されたPalBの哺乳類ホモログである。PalBはカビのpH環境に応答する転写因子を限定分解するプロテアーゼとして発見され、同様の作用をする酵素Cpl1/Rim13が酵母でも研究されている。しかし、哺乳類での機能に関しては全く不明であり、酵素活性をもつかどうかさえ分かっていない。本論文は、calpain 7がN末端領域にMIT(microtubule interacting and trafficking、 最近はtraffickingの代わりにtransportも使われる)ドメインをもつことに注目し、動物細胞内での生理作用についてヒントを得る目的で行ったものである。細胞表面から細胞内に取り込まれたEGFなどの受容体は、エンドソームにおいて、リソソーム分解系に運ばれるかリサイクルされるかの選別が行われ、モノユビキチン化された受容体(積荷分子)は、ESCRT(endosomal sorting complex required for transport)と称される選別輸送装置によって、エンドソーム膜が陥入(出芽)してできる微小胞に送り込まれる(Multivesicular body, MVB選別)。ちなみに、ESCRT-0, -I,-IIを構成する因子は、モノユビキチンと結合するドメインをもっている。上流のESCRTがエンドソーム膜上にリクルートするESCRT-IIIはMVB選別の最終段階で働く因子複合体であり、いまだ実験的証拠はないが、出芽した膜を切断すると考えられている。哺乳類ではCHMP (charged multivesicular body protein)と称される因子がこれを担っている。AAA-type ATPaseのSKD1/Vps4B、Vps4Aは会合したESCRT-III複合体を解離させ、リサイクルする。また、AMSHやUBPYは脱ユビキチン化酵素で、ESCRTシステムの制御因子として作用している。Vps4、AMSH、UBPYはいずれもMITドメインをもち、いくつかのCHMPと直接相互作用することが明らかにされている。本論文で、calpain 7は11種類のCHMP (CHMP1-7、アイソフォームを含む)のうち、CHMP1Bと特に強く、そして、CHMP1A、CHMP4bとも相互作用することを明らかにした。calpain 7は、2つのMITドメインをもつが、相互作用には2つとも必要であること、また、組換え蛋白質を用いて、CHMP1Bと直接結合することを明らかにした。calpain 7のモノクローナル抗体を作製し、免疫染色するとHeLa細胞内の細胞質で細かい斑点状に存在し、細胞内に取り込ませた蛍光標識EGFと僅かであるが一部共局在した。モノマー型EGFPと融合させたmGFP-calpain7は、より鮮明にEGFとの共局在が観察された。以上のことより、calpain 7は、エンドソーム経路に関与していることが示唆された。しかし、残念ながら、calpain 7の過剰発現やノックダウン実験でEGFのMVB選別輸送に影響は観察されず、生理機能を明らかにするためには、より詳細な解析が必要である。calpain 7が果たして酵素活性をもつかどうか、いまだ不明である。少なくとも、Strep-tag付加した精製calpain 7には、自己消化活性は検出されなかった。また、酵素活性をもつとしても、典型的カルパインとは異なりpenta-EF-handドメインをもたないため、カルシウム依存性があるかどうか、さらに、基質が何であるか、答えるのが難しい問題が山積している。しかしながら、仮想上の活性残基Cys290のSer変異体(C290S)を用いると、細胞内に取り込まれた蛍光標識EGFとより鮮明な共局在が観察される傾向があり、酵素活性との関連が示唆され、今後の展開が望まれる。