PubMedID |
18287526 |
Journal |
Mol Biol Cell, 2008 Feb 20; [Epub ahead of print] |
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Title |
Organization of the Pre-Autophagosomal Structure Responsible for Autophagosome Formation. |
Author |
Kawamata T, Kamada Y, ..., Sekito T, Ohsumi Y |
東京大学分子細胞生物学研究所 RNA機能研究分野 泊 幸秀研 川俣 朋子 2008/03/10
PASの新しい捉え方
オートファゴソーム形成に関わる飢餓誘導性のPASと、そのコア
私は約一年前まで基生研(大隅研究室)に所属していました。最近、大隅研究室時代の論文が受理されましたので、紹介したいと思います。PAS (pre-autophagosomal structure)の発見(2001年)から、今回紹介する私の論文まで、PASの理解の変遷について、分野外の人に理解していただくのはかなり難しいとは思いますが、簡単にその歴史と道筋を記します。(詳しくは、実験医学増刊・タンパク質の分解機構(2008年)の「酵母オートファジーの誘導機構の研究」に掲載されています。)
最初の鈴木さんの論文(EMBO, 2001)では、PASを栄養増殖時の Atgタンパク質の局在解析から定義しています。出芽酵母では autophagyに類似した生合成経路(Cvt経路(注))が構成的に働いており、オートファジーのみならずCvt経路のためにも多くの Atgタンパク質が適切にオーガナイズされる必要があります。この2つの経路は完全に独立ではないかもしれないのですが、Cvt経路を遮断しても、オートファジーには全く影響を与えないことが既に解っています。そこで、飢餓誘導性の非選択的なオートファジー、すなわちオートファゴソーム形成に関わるPAS理解する上で、Cvt経路を完全に欠損させた条件下での解析が有用な情報を与えるだろうと考えました。
本論文では、Cvt経路を欠損させるため、atg11を破壊した株ですべての実験を行いました。その結果、オートファゴソームを作るPASは栄養源にsensitiveである(言い換えれば、オートファジーが誘導される条件でPASが形成される)ことが観察できました。細胞を栄養飢餓から解除するとただちに(10分以内に)PASの輝点が消失することがわかりました。
さらには、Cvt経路には必須ではなく、オートファジー特異的に作用するタンパク質(Atg17,Atg29, Atg31)と、Atg1キナーゼ複合体(Atg1-Atg13)がオートファゴソームを作るPASの土台になっていることを明らかにしました。
PASの実体など、多くは未だ謎のままですが、この論文が、オートファジーの最も重要な問題、すなわち、1)オートファゴソーム膜がどのようにして、どこから新規に合成されるか、また、2)オートファジーの誘導機構 を解明する一つのきっかけになればと思っています。
注)
出芽酵母では、液胞内酵素アミノペプチターゼI(API)は、「選択的に」オートファゴソームと類似した二重膜で取り囲まれ、液胞へと運ばれる(Cvt経路)。この膜構造の大きさは約150 nmと小さく、オートファゴソーム (約300-900 nm)と明確に区別できる。既知の18種類のAtgタンパク質のうちのほとんどがCvt経路に必須である。一方、Cvt経路には関与せず、オートファジー特異的に機能するのは、Atg17, Atg29, Atg31のみである。Cvt経路は構成的に動いているが、細胞が飢餓シグナルを感知するとオートファジーが誘導される。この2つの経路を制御しているのがAtg1キナーゼであると考えられている。