PubMedID | 18083104 | Journal | Cell, 2007 Dec 14;131(6);1149-63, | |
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Title | Homeostatic levels of p62 control cytoplasmic inclusion body formation in autophagy-deficient mice. | |||
Author | Komatsu M, Waguri S, ..., Kominami E, Tanaka K |
細胞内封入体は,様々な病態において観察される特徴的な構造体である.この構造体は,細胞毒性を発揮する可溶性変性タンパク質やオリゴマーを無毒化するために形成されるという考えが支配的になりつつあるが,未だ議論の余地がある.封入体の構成成分は一部の例外を除いてユビキチン化タンパク質が含まれることから,封入体形成は細胞内選択的タンパク質分解経路ユビキチン−プロテアソーム系の破綻による変性タンパク質の蓄積に起因すると考えられてきた.一方,最近,オートファジーのマウス遺伝学的研究から,オートファジーの不全がユビキチン陽性封入体の形成を伴った肝障害,神経変性疾患を引き起こすことが明らかになった(Komatsu M, et al: J Cell Biol (2005) 169: 425-434, Komatsu M, et al: Nature (2006) 441: 880-884, Hara T, et al: Nature (2006) 441: 885-889).すなわち,基底レベルのオートファジーによるタンパク質除去機構が肝細胞や中枢神経系ニューロンにおいて極めて重要な役割を果たしていることが判明した.しかしながら,どのようなメカニズムでユビキチン陽性封入体が形成されるのか?どのようにして病態発症に至るのか?は全く不明であった.ごく最近,我々は,オートファジーによるp62/a170/Sqstm1の代謝が封入体形成を制御することを見いだした.
我々は,オートファゴソームに局在するLC3(酵母Atg8のヒトホモログ)をベイトにプロテオーム解析を行った結果,LC3と予想外のタンパク質p62/a170/Sqstm1 (以後,p62と省略)との相互作用を確認した.p62は,Phox and Bem1p (PB1)ドメイン,ジンクフィンガードメインなどを介してRIP, TRAF6, ERK, aPKCなどのシグナル伝達を担う多彩な分子群と相互作用することから,スカフォールドタンパク質と考えられてきた.興味深いことに,p62はC末端にユビキチン鎖結合ドメイン(UBAドメイン)を有している.しかし,その詳細な機能は未だに明確でない.さらに,p62は骨パジェット病の原因遺伝子産物として同定されており,実際にp62ノックアウトマウスは,破骨細胞分化因子receptor activator of NF-kappaB ligand (RANKL)刺激による破骨細胞分化に異常を示す.また,このマウスは脂肪細胞の過剰分化を伴った肥満を引き起こし,2型糖尿病を発症する.
LC3はAtg結合システム依存的にホスファチジルエタノールアミン(PE)にアミド結合され,オートファゴソームの内膜および外膜に局在する.PE化されたLC3(LC3-II)は,隔離膜の伸張に必須と考えられている.オートファゴソーム形成に伴い,外膜に局在するLC3-IIはシステインプロテアーゼAtg4Bにより膜から切断され再利用される一方,内膜に局在するLC3はオートファゴソームがリソソームと融合することによりオートファゴソームに取り囲まれた細胞質成分とともに分解される.実際,リソソーム酵素阻害剤を処理すると,LC3-IIはリソソーム内に蓄積する.同様に,p62もリソソーム酵素阻害剤やリソソーム内の酸性化を阻害するBafilomycin A1処理によりリソソーム内に蓄積する(プロテアソーム阻害剤処理によっては影響されない).さらに,オートファジー欠損細胞,組織においてもp62の蓄積が確認されている.これらのことは,p62はLC3との相互作用を介してオートファジー−リソソーム系で分解されることを意味する.(Bjorkoy G, et al: J Cell Biol (2005) 171: 603-14とほぼ同じ.)
我々は,オートファジーによるp62の代謝の意義を検討するため,肝臓もしくは脳特異的Atg7 (Atgタンパク質結合システムのE1様酵素でオートファジーに必須な遺伝子)欠損マウスにおける,p62の動態を調べた.その結果,Atg7を欠失させた肝臓もしくは脳においては,p62が蓄積,不溶化し,最終的にp62陽性の封入体形成が確認された.興味深いことに,Atg7欠損肝臓,脳において,ユビキチン化タンパク質とp62は比例的に蓄積し,ほぼ全ての封入体がユビキチン・p62陽性であった.このことから,ある種のユビキチン化されたタンパク質はp62に(おそらくUBAドメインを介して)トラップされオートファジーにより分解されている可能性が示唆された.重要なことに,ユビキチン・p62陽性封入体は,アルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患やアルコール性肝炎,脂肪肝,肝癌患者組織において同定されている.
さらに,封入体形成おけるp62の役割を検討するために,Atg7/p62ダブルノックアウトマウスを作製した結果,驚いたことに,オートファジー不全により出現する封入体は, p62の同時欠失によってユビキチン化タンパク質の蓄積に関わらずほぼ完全に消失した.このp62欠失による封入体形成の抑制は,オートファジー欠損肝臓,脳ともに確認されることから,組織普遍的な現象と思われた.これらのことは,神経変性疾患や肝疾患で観察される封入体形成がオートファジーの減弱に起因しうること,そしてp62が封入体形成の責任分子であることを強く示唆している.p62はN末端PB1ドメインを介して,ホモオリゴマーを形成することから,過剰なp62の蓄積はPB1ドメインを介して凝集化すると考えられる.この時p62のUBAドメインを介して会合したユビキチン化タンパク質も同時に凝集するのかもしれない.実際,培養細胞へのp62の過剰発現は,PB1ドメイン依存的に封入体形成を引き起こす.さらに,プロテアソーム阻害剤処理によるユビキチン陽性凝集体形成が,p62ノックアウト細胞において抑制されるらしいことから,p62は封入体形成に関わる普遍的な媒介タンパク質であると推定される.
現在までに、オートファゴソームの過度の蓄積が神経変性疾患・ミオパチーにおいて確認されるなど,オートファジーの異常とユビキチン陽性封入体を伴う病態発症の関連が示唆されてきた.また,最近,オートファジーによる肝疾患や神経変性疾患の原因遺伝子産物,即ち凝集易様性の変異タンパク質の分解を示す報告が累積している.さらに,マウス遺伝学的解析から,オートファジーの減弱が多くの疾患で確認されるユビキチン・p62陽性の封入体を伴った神経変性,肝障害を引き起こすことが明らかになった.これらのことは,オートファジーによる病態防止機構の存在,その破綻による病態発症を強く示唆する.今後,多様な病態に観察される封入体形成とp62の動態の解析が注目されるだろう.
今後の課題として、
1. ヒト疾患で確認される封入体もp62依存的なのか?
2. p62はどのような分子機構でLC3にトラップされるのか?
3. オートファジー欠損マウスで確認されるユビキチン化タンパク質の蓄積は、p62ノックアウトマウスでは確認されない。但し、老齢p62ノックアウトマウスではユビキチン化タンパク質の蓄積があるらしい。p62を代償する因子があるのか?
4. オートファジー欠損により出現する封入体は可逆性なのか?(壊せるのか?)
5. オートファジー欠損肝臓においてp62依存的な解毒酵素の誘導が確認されるが、そのメカニズムは?
6. オートファジー欠損による肝機能障害は、p62の同時欠失により抑制されるが、そのメカニズムは?
7. オートファジー欠損神経における・・・(多すぎて書ききれません!)
8. p62ノックアウトマウスの肥満phenotypeは、本当にシグナル伝達異常?
等々、分からないことばかりです。今後、ひとつひとつ問題を解決していきたいと思っています。
1 | 東京医科歯科大学 細胞生理 水島昇 | Ub化タンパク質は特異的にオートファジー分解される?されない? | 2008/03/11 |
小松さん、本当に長い書き込みをありがとうございました。
分解系の連携を意識した本特定領域では、オートファジー不全状態でのUb化タンパク質蓄積の原因を知りたいところです。私は、オートファジー不全によるタンパク質代謝回転の漠然とした低下が二次的Ub化を引き起こしているのではないかと予想していますが、LC3-p62を介したUb化タンパク質の特異的分解の不全の結果と考えることも可能かと思います。しかし、今回のこの論文から、LC3-p62経路ですべて説明可能ということはない、と言えるかと思います。 一方、最近の他の論文(Wooten et al. jbc.M709496200)では、p62-/-マウスの脳でK63ポリUb化タンパク質が蓄積すると報告されており、これはTRAF6に結合するK63脱ユビキチン化酵素CYLDの活性が落ちるためらしいです。小松さんの指摘にもありますように、シグナル伝達で機能するp62についても考えないとならないとすると、かなり複雑になりますね。 |
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2 | 順天堂大学医学部生化学第一 木南英紀研 小松雅明 | 全てではないですが〜ハエでも同じ現象か? | 2008/03/11 |
水島先生のご指摘の通り、オートファジー欠損で蓄積するUb化タンパク質の蓄積は、p62-LC3経路の破綻だけに起因しないと思われます。これは、p62KOマウスでのUb化タンパク質の蓄積が(Atg欠損マウスと比べて)少ないことから示唆されます。残念ながら、現段階では、「代謝不全によるub化タンパク質の蓄積量」と「LC3-p62経路の破綻によるub化タンパク質の蓄積量」を比較することは難しいです。
むしろ私が強調したいことは、「オートファジー不全によるタンパク質代謝回転の漠然とした低下がUb化タンパク質の蓄積に導く。」だけではなく、「ある種のUb化タンパク質はp62-LC3を介して分解される。この選択的オートファジーの破綻こそが封入体形成の主因となりうる。」ということです。これをキッチリと証明する為には、LC3と結合できないp62変異体をオートファゴソーム形成が正常におこるp62ノックアウト細胞に入れ、ユビキチン陽性封入体形成を検討するのが一つの手段と考えています。もし、そのような細胞でもユビキチン陽性の封入体が形成されるのであれば、p62-LC3経路によるUb化タンパク質の代謝不全こそが封入体形成の主因であると言えるのかもしれません。 まだ、見ることできませんが、next JCBに「Ref(2)P, the Drosophila melanogaster homologue of mammalian p62, is required for the formation of protein aggregates in adult brain.」なる論文がでるようです。 シグナルに関しては、なぞです。少なくともわたしども系では、p62のUbaドメインがK63ポリUbにアフィニティーが高い一方、TRAFとの相互作用は確認されません。 |
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3 | 東京医科歯科大学・細胞生理学分野 水島昇研 原 太一 | p62−LC3によるUb化タンパク質の分解 | 2008/03/12 |
あくまで私の印象でコメントさせていただきます。p62は易凝集性を示すためオートファジーによるp62の量的制御は封入体形成の抑制に重要な役割を果たしている考えられます。私の印象としては、オートファジーの不全によるp62の異常蓄積が封入体形成の主因であるように感じています。もちろん、p62はUbタンパク質と結合するので、ある種のUb化タンパク質の代謝にp62-LC3経路は重要な役割を果たしていることは間違いないと思っています。それでも、p62、Atg7DKOマウスにおいてもUb化タンパク質が蓄積していることを鑑みると、全般的なUb化タンパク質の代謝にはバルク分解が貢献しているのではないかと考えています。p62-LC3経路は、むしろその選択性によって特殊なタイプ(K63タイプのポリユビキチン化タンパク質など)のユビキチン化タンパク質の代謝や機能制御(シグナル伝達?)に関与しているように想像しています。この経路の生理的役割について大変興味を持っております。小松さんのコメントにあるLC3と結合できない変異体の戻しは興味深い実験ですが、Bjørkøy(JCB. PMID: 16286508)らの報告のようにp62のPB1とUBAドメインの過剰発現で封入体が形成されてしまいます。これでは、p62自身の代謝不全が封入体形成の主因である可能性を否定することは難いように思われます。p62-LC3経路によるユビキチン化タンパク質の代謝の意義を解析するにはp62ノックアウト細胞にUb結合能を欠いたp62(I431Aなど)を戻した方が良いように思いますが、如何でしょうか?いずれにしても、p62が標的にしているユビキチン化タンパク質の同定は今後の重要な課題の一つであると考えられます。今後の展開が期待されます。 | |||
4 | 順天堂大学医学部 木南英紀研 小松雅明 | p62の代謝不全=封入体形成? | 2008/03/12 |
原さん、コメントありがとうございます。
Ub化タンパク質の蓄積に関しては、前のコメントでも記載しましたが、「オートファジー代謝不全によるub化タンパク質の蓄積量」と「LC3-p62経路の破綻によるub化タンパク質の蓄積量」を比較することは難しいです。 ただ、ご指摘の通り、p62/Atg7 DKOマウスにおいてもUb化タンパク質が蓄積しているので、バルクな分解阻害(オートファジー欠損)→変性タンパク質の蓄積→Ub化/Ub化タンパク質の蓄積があるのは間違いないです。 戻し実験に関して、貴重なご意見ありがとうございます。是非やってみたいと思います。水島さん、原さんともに先を見ていて、私は少し考えがゆっくりのようです(一般には回転が遅いといわれる)。ですが、「p62-LC3経路によるユビキチン化タンパク質の代謝」を解析する前に、もう当たり前?になっている「p62はLC3に結合して、オートファジーにより分解される」構造・分子レベルでのメカニズムを明らかにしたいと考えています。まずは、LC3-p62の相互作用部位の決定、アミノ酸置換によるLC3に結合できないp62変異体の作製が急務と思っています。p62の過剰発現は、原さんのご指摘のようにub-p62陽性のinclusionを形成しますが、Tet-ON systemでDox濃度を低濃度におさえることで、endogenousなlevelでp62を発現させることができます。この状態ですと、inclusionは形成されません。この条件下で、LC3と結合できないp62の挙動を見てみたいのです。変異体では、p62の過剰発現と同様にub-p62陽性のinclusionができると予想され、ub化タンパク質の巻き込み説を排除することはできないでしょう。しかし、オートファジーによるp62の代謝不全だけでinclusion形成を起こすということは直接的に証明できます。原さんのコメントにあります「p62自身の代謝不全が封入体形成の主因である可能性」を証明したいのです。 |
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