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PubMedID 17382888 Journal Cell, 2007 Mar 23;128(6);1219-29,
Title Proteolytic degradation of SCOP in the hippocampus contributes to activation of MAP kinase and memory.
Author Shimizu K, Phan T, Mansuy IM, Storm DR
東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 深田研  深田吉孝研    清水貴美子     2008/03/12

Calpain は長期記憶形成機構に関与している
 自分の論文で恐縮ですが、投稿させていただきます。

 海馬依存性の長期記憶形成には、ERK/MAPK の活性化、CREB のリン酸化を介したCRE-transcription とそれに続く新しいタンパク質の合成が必要である事が知られています。今回、Calpain が SCOP (suprachiasmatic nucleus circadian oscillatory protein) というタンパク質を分解する事により CRE-transcription を活性化し、長期記憶形成が引き起こされるという新しい調節系を明らかにしました。

 それまでの私達の研究で、SCOPが細胞膜のRafts においてK-Rasと結合し、K-Ras の下流であるERK/MAPK 経路を負に制御している事は明らかにしていました。今回の論文では、海馬の初代培養神経細胞を用いて、刺激依存性に引き起こされるSCOPの分解とそれに伴って起こるERKの活性化が、Calpain阻害剤によって抑制される事を示しました。そして、in vivo の実験でマウスの海馬CA1領域にCalpain を投与しておくと、物体認識の長期記憶形成が阻害され、SCOP過剰発現マウスで見られる現象と同じ結果が見られました。CalpainとSCOPが関わる長期記憶調節機構として次のようなモデルを考えています。学習により海馬の神経細胞が刺激を受けると細胞内Ca++濃度が上昇し、Calpainが活性化。その結果SCOPは分解され、これまでSCOPが負に制御していたK-Ras-ERK/MAPK-CRE-transcription経路が流れ、記憶が固定化する。

 試験管内の実験では、m-, µ-Calpain の両方ともがSCOPを分解しますが、生体内でどちらが重要なのかはわかっていません。µ-Calpainノックアウトマウスが、ある種の長期記憶やLTPに異常を示さないことから、m-Calpain の方が重要であるかもしれません。また別の視点から見ると、SCOPとK-Rasの結合がRaftsで起こるため、RaftsにおいてCalpain がSCOPを分解するのが効率的であると考えられます。他の細胞系ではm-Calpain がRafts にあるという報告があるので、海馬においてもm-CalpainがRaftsに局在してSCOPに作用する可能性も考えられます。

 Calpainは記憶形成だけでなく多様な生理機能に関与しているはずなので、今後、脳におけるCalpainの生理的役割がもっと明らかになるのを楽しみにしています。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局