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PubMedID 18296641 Journal Proc Natl Acad Sci U S A, 2008 Mar 4;105(9);3374-9,
Title A role for the NAD-dependent deacetylase Sirt1 in the regulation of autophagy.
Author Lee IH, Cao L, ..., Alt FW, Finkel T
東京大学医科学研究所 分子細胞情報分野  武川(斎藤)研    久保田裕二     2008/03/21

脱アセチル化酵素 Sirt1 によるオートファジーの新規制御機構

Sirt1はNAD依存的に活性化する脱アセチル化酵素であり、カロリー制限によりNAD/NADH比が高まることでSirt1が活性化することが知られています。

筆者らは絶食したマウスではSirt1の発現亢進が観察される事を発表しており(Science, 2004)、Sirt1が栄養飢餓によるオートファジーに関与していることが示唆されていました。
そこで筆者らは、Sirt1のAtg蛋白質に対する脱アセチル化活性と、オートファジーとの関連について調べています。
まず、Sirt1をHCT116細胞に過剰発現させたところ、オートファジーが誘導されました(ウェスタンにおけるLC3のシフト、およびGFP-LC3を用いたオートファゴソ−ムの形成の確認)。またSirt1-/-マウス由来の組織、およびMEFでは栄養飢餓によるオートファジー誘導が抑制されました。従ってSirt1がオートファジーに必要な分子であることが考えられます。また、Sirt1と各Atg蛋白質(Atg5/7/8)がin vivoで結合することから、各Atg蛋白質がSirt1の基質となっている可能性を検討したところ、実際にAtg5, Atg7, Atg8のアセチル化が検出され、Sirt1を過剰発現するとこれらのアセチル化の減少しました(アセチル化リジン抗体を用いたウェスタンブロットから)。
これらの事から、血清飢餓によるオートファジーの誘導にはSirt1の発現が必要であり、その過程にはSirt1のAtg5, Atg7, Atg8の脱アセチル化が関与する事を筆者らは提唱しています。

Atg蛋白質がアセチル化を受ける、という知見は、私が探した限りでは今回の報告が初めてのようです(門外漢なもので、他にも報告例がございましたらご指摘お願い申し上げます)。少々気になった点は、Atg蛋白質のアセチル化の検出に関して、抗アセチル化リジン抗体で免疫沈降した後に、抗Atg蛋白質抗体でウェスタンブロットするという方法を用いている点です。全体的にAtg蛋白質のアセチル化に関して基礎的な情報が少ないので、出来れば質量分析を用いたAtg蛋白質のアセチル化の証明や、リジン残基の同定などを初期の実験で調べて頂いた方が、より信頼性があるかと思われました。今後の解析によりオートファジー経路の新たな制御の一つとして、Atg蛋白質のアセチル化の詳細な機構が解明されることを期待しています。
   
   本文引用



Copyright 特定領域研究「タンパク質分解による細胞・個体機能の制御」事務局