PubMedID |
18344973 |
Journal |
EMBO Rep, 2008 Mar 14; [Epub ahead of print] |
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Title |
Lentivector-mediated rescue from cerebellar ataxia in a mouse model of spinocerebellar ataxia. |
Author |
Torashima T, Koyama C, ..., Yamaguchi H, Hirai H |
東京薬科大学 生命科学部 分子生化学研究室 柳 茂 柳 茂 2008/04/01
ユビキチンープロテアソーム経路の活性化を利用した神経変性疾患の遺伝子治療
東京薬科大学の柳茂です。今回、ユビキチンープロテアソーム経路の活性化を利用した神経変性疾患の遺伝子治療ついて、私たちの研究をご紹介致します。
今月、群馬大学の平井宏和教授との共同研究にて、私たちが同定した遺伝子CRAGをもちいて神経難病の一つである脊髄小脳変性症の遺伝子治療にマウスで成功したことを発表致しました(EMBO Rep. 2008)。CRAGは当初、神経回路網形成に関わる反発因子セマホリンのシグナル伝達に関与する新規分子として同定されましたが、ポリグルタミン病の病理所見によく似た挙動を示したので調べてみたところ、CRAGがポリグルタミン変性タンパク質を核内に連れ込みPML bodyにおいてユビキチンリガーゼを活性化してプロテアソームにて分解を促進すること、そして細胞の生存を著しく強めることを見出しました。CRAGがポリグルタミン病の治療遺伝子になると考え、特許出願後に論文を発表致しました(J. Cell Biol. 2006, 172(4):497-504)。
しかしながら、本当に生体内でも培養細胞で観察した同様の効果が認められるのだろうか?症状は改善されるのか?副作用はないのか?などの疑問には答えられませんでした。その頃、同じ研究機関(神戸大学医学部)に所属していた平井宏和先生(現、群馬大学)がレンチウイルスを用いてマウスの小脳に遺伝子を導入する技術を開発したことを知り、マウスの系で調べてもらえないかお願いしてみたところ快諾してくれました。
まず、CRAG遺伝子を挿入したレンチウイルスを、病原性Atxin-3(マシャド・ジョセフ病の原因遺伝子)を小脳のプルキンエ細胞に発現させた脊髄小脳変性症モデルマウスに注入したところ、小脳失調症の大幅な改善が観察されました。驚いたことに、病原性Atxin-3の凝集塊が消失しただけではなく、乱れた小脳の層構造も正常に回復したのです。さらに、樹状突起の伸展など、強力な分化誘導活性も認められました。ヒトへの臨床応用には安全性や倫理面などクリアーしなければならないハードルはありますが、ヒトにも同様の効果があることは十分に期待できると思います。
現在、私たちはCRAGの生理的役割を解析しておりますが、CRAGは単に変性タンパク質の分解を誘導するだけではなく、活性酸素種のストレスから細胞を守るためにPML bodyにおいて転写を制御することにより生存シグナルを伝達して、同時に分化を誘導する活性があることがわかってまいりました。このことも今回のin vivoでの遺伝子治療の成功と密接に関係しているのだと思います。さらに最近、CRAGが活性化するユビキチンリガーゼも判明し、解析を進めていますので、論文としてまとめていきたいと考えています。