文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 令和元年~5年度(2019年~2023年度) マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解

領域代表:小松 雅明

オートファジー研究は、大隅良典教授らの出芽酵母を用いた先駆的な研究、すなわち出芽酵母マクロオートファジーの発見とそれを制御するATG ( Au Topha Gy-related) 遺伝子の同定により飛躍的な発展を遂げました。ATG遺伝子群の多くは真核生物に広く保存されているため、逆遺伝学的手法を用いてマクロオートファジーの基本的生理機能、例えば、飢餓適応、発生、タンパク質・オルガネラ恒常性、細胞内病原体分解などが明らかにされました。さらに神経変性疾患やがんとの関連も注目されています。このような分野の爆発的な広がりを背景に、2016年、大隅良典教授にノーベル生理学・医学賞が授与されました。しかし、現在、オートファジー研究は、収束に向かう状況にはありません。新しい発見がさらに多くの未知を創出し、解明すべき課題が山積しているからです。実際、これまでに多数のマクロオートファジー関連分子が同定されましたが、それらが作動する基本フレームは不明です。さらに、従来の概念を超えた謎、つまり「多様なオートファジー経路」、そして「オートファジーの選択性」の存在が顕在化してきました。これら根源的な問題の統合的理解には、これまで日本が築いてきた質の高いオートファジー研究を戦略的に推進することが不可欠です。本研究領域は、多様なオートファジー経路を視野に入れ、オートファジーの概念を、動植物を含む多様なモデル生物を用いて拡張することで、旧来の学問の枠を超えた新しい研究領域を開拓することを目的としています。特に、各オートファジー経路間の関係性(選択性、寄与率、相乗・相反性等)の分子機構へ迫ることはオートファジーの全体像の解明に向けた重要なステップと考えています。

様々なバックグラウンドの研究者の皆さまにこの新学術領域研究「マルチモードオートファジー」に結集していただき、大いに情報交換、議論、共同研究ができたらと思っております。前新学術領域「オートファジーの集学的研究」でもご活用頂きましたウェブベースの討論サイト「オートファジーフォーラム」を継続するとともに、オートファジープロトコールのアップデート、そしてオートファジー研究の未解明・未解決問題も紹介いたします。本邦のオートファジー研究領域の拡大に貢献できればと考えております。

5年間の研究が実りあるものとなりますよう、皆さまのご支援をいただきたくよろしくお願い申し上げます。

順天堂大学大学院 医学研究科・教授・小松 雅明