文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 令和元年~5年度(2019年~2023年度) マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解

細胞非自律的オートファジーが駆動する細胞競合の分子機構の解明

研究代表者

井垣 達吏(Tatsushi Igaki)
京都大学・大学院生命科学研究科 教授
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genetics/

井垣 達吏

研究課題の概要と計画

細胞競合とは、組織中に生じた変異細胞や異常細胞が周囲の正常細胞との相互作用を介して排除される現象である。細胞競合により排除される「敗者細胞」は、単独では生存可能であるが、正常細胞(「勝者細胞」)に近接すると細胞死を起こす。つまり、勝者細胞は近接する敗者細胞に細胞非自律的に影響を及ぼしていると考えられる。これまでに、タンパク質合成能が低下するような変異を持つ細胞が細胞競合の敗者になる例が報告されてきた。我々は最近、そのような細胞競合の実行にオートファジーが中心的な働きをすることを見いだした。具体的には、ショウジョウバエ上皮組織において、野生型細胞(勝者)に近接する変異細胞(敗者)で局所的にオートファジーが活性化し、これがNFB依存的に細胞死遺伝子hidの発現を誘導することで敗者の細胞死が起こることがわかった。そこで本研究では、正常細胞に近接する変異細胞でオートファジーが活性化するメカニズム、およびオートファジーの活性化がhidを発現誘導するメカニズムをショウジョウバエ遺伝学を用いて明らかにすることで、タンパク質合成能依存型細胞競合の分子機構解明およびオートファジーの新たな役割とその機構の解明を目指す。

本研究課題に関連する代表的論文3報

Sanaki Y, Nagata R, Kizawa D, Leopold P, Igaki T. Hyperinsulinemia drives epithelial tumorigenesis by abrogating cell competition. Developmental Cell, 2020, 53, 379-389.

Nagata R, Nakamura M, Sanaki Y, Igaki T. Cell competition is driven by autophagy. Developmental Cell, 2019, 51, 99-112.

Yamamoto M, Ohsawa S, Kunimasa K, Igaki T, The ligand Sas and its receptor PTP10D drive tumour-suppressive cell competition. Nature, 2017, 542, 246-250. 

キーワード

Cell competition; Autophagy; Drosophila