PubMedID 28980865
タイトル Morphometric analysis of autophagy-related structures in Saccharomyces cerevisiae.
ジャーナル Autophagy, 2017 Oct 05; [Epub ahead of print]
著者 Kawaoka T, Ohnuki S, Ohya Y, Suzuki K
  • 出芽酵母におけるオートファジー関連構造体の形態定量解析
  • Posted by 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 河岡辰弥
  • 投稿日 2017/10/10

 このたび発表いたしました私たちの研究結果をご紹介いたします。

 出芽酵母では、前駆型Ape1を過剰発現しAtg8を蛍光標識することでカップ状の隔離膜(IM)を可視化することができます。オートファジー関連構造体の形態、特に構造体の長さ(構造体長)はオートファジー活性を反映することがこれまでの解析で明らかとなっています。今回我々は、画像処理と機械学習を組み合わせ、高速かつ包括的なオートファジー関連構造体の形態解析を行うシステム、Qautas (Quantitative autophagy-related structure analysis system)を開発いたしました。従来使用していた手動での計測方法と合わせて今回の論文で紹介しております。

Qautasは画像解析により、顕微鏡画像中の全てのオートファジー関連構造体を抽出します。次に、機械学習によりその構造体が伸展前のドット状構造体なのか伸展した構造体なのかを分類します。伸展した構造体に注目して形態解析を行うことで、オートファジー変異株におけるIM伸展能を解析することが可能となります。

弱いオートファジー活性を示し、短い構造体長を示すことが知られているatg1キナーゼ変異株(D211A株, K54A株)を使用してQautasの精度を検証しました。その結果、完全にオートファジー活性が失われているD211A株に比べ、弱いオートファジー活性を持つK54A株は長い構造体長を示すという手動で解析された先行研究の結果と一致する結果となりました。ただし、解析に要する時間は圧倒的に短く済みます。ここまでが今回論文で発表した内容です。

Qautasは無料で使用できるオープンソースソフトウェアの組み合わせで構築されたシステムです。オートファジー関連構造体の形態解析を自動で行うために必要な材料は全て論文のSupplemental materialsとして公開しております。原理的には酵母以外の細胞にも応用可能なので、形態解析ツールとして使用していただけると幸いです。

Qautasの開発により画像内の全てのオートファジー関連構造体を高速で解析することが可能となり、従来手動では手間がかかり過ぎることから解析対象から外れていた伸展途中の構造も含めた包括的な形態解析ができるようになりました。Qautasを使用した解析では、野生株、atg1キナーゼ欠損株、atg1欠損株、atg2欠損株で見られるオートファジー関連構造体の形態学的特徴が全て異なるという結果が得られています。このシステムで様々なオートファジー変異株を解析することにより、形態学的な数値情報からAtgタンパク質の作用機序を詳細に解析することが可能になると考えております。包括的かつ客観的な形態学的解析を行い、新たな切り口からAtgタンパク質の機能を解析することが本研究の本質的な目標です。今後の解析結果にご期待ください。