PubMedID 31526472
タイトル A critical role of VMP1 in lipoprotein secretion.
ジャーナル Elife, 2019 Sep 17;
著者 Morishita H, Zhao YG, Tamura N, Nishimura T, Kanda Y, Sakamaki Y, Okazaki M, Li D, Mizushima N
  • 小胞体膜タンパク質VMP1はリポタンパク質分泌に必要
  • Posted by 東大・医(現:順大・医(小松研)) 森下英晃
  • 投稿日 2019/09/21

eLife誌に掲載されました私たちの最近の成果を紹介させていただきます。

オートファジーには多数のATG因子群が関与しますが、個々のATG因子の生理機能(オートファジー非依存的機能など)については十分に解明されていません。今回私たちは、遺伝子改変が容易で全発生過程を体外で観察可能なゼブラフィッシュを用いて、主要なATG因子欠損体の表現型を比較解析しました。その結果、オートファジーに必要な小胞体膜タンパク質VMP1の欠損体では、他のATG欠損体と異なり、腸管上皮細胞と肝細胞の小胞体内に、リポタンパク質(血中で中性脂肪やコレステロールを運搬する球状粒子で、腸管上皮細胞、肝細胞、臓側内胚葉細胞の小胞体内腔で形成され、ゴルジ体経由で分泌される)が蓄積することがわかりました。VMP1欠損マウスでも腸管上皮細胞や臓側内胚葉細胞で同様な表現型を認め、血中のリポタンパク質の低下を認めました。さらにHepG2細胞を用いた解析から、VMP1がリポタンパク質の分泌に重要であることが分かりました。

リポタンパク質は、小胞体の膜内で合成された脂質が小胞体内腔へ離脱し、リン脂質一重層とアポリポタンパク質に取り囲まれることで形成されます。本研究では、VMP1がリポタンパク質の分泌に重要であることは明らかでしたが、VMP1が分泌のどの段階に必要かを見出すのに苦労しました。最終的に、VMP1欠損細胞では小胞体の膜内へ脂質が蓄積しており、その周囲にアポリポタンパク質が蓄積していたことから、VMP1は小胞体膜から離脱する過程に必要であると推測されました。本研究ではさらに、VMP1がリポタンパク質だけでなく、脂肪滴の小胞体膜からサイトゾルへの離脱の過程にも関与するという結果も得ていますので、脂肪滴やオートファジーとの関連を考えますと、VMP1がリポタンパク質の小胞体膜からの離脱に関与しているというのは十分ありうるのではないかと考えています。なお最近、ヒトVMP1遺伝子の一塩基多型(SNP)と血中のコレステロール値との関連が報告されましたので、本研究の成果は、脂質異常症などの疾患の理解にも貢献することが期待されます。

本研究ではVMP1の生理機能の一端を見出すことができましたが、ではVMP1の本質的な分子機能は何か?正常細胞でVMP1はどのようにオートファジー、リポタンパク質分泌、脂肪滴形成などの多彩な経路を制御しているのか?といった重要な問題は依然として残っています。VMP1が関係するいずれの過程でも、小胞体の膜の性質や形態のダイナミックな変化を伴いますので、VMP1は小胞体膜の恒常性維持やリモデリングなどに関与している可能性があります。今後、VMP1の構造解析、in vitro機能解析、VMP1やTMEM41Bが属するVTTファミリータンパク質の詳細な機能解析(リピドミクス解析を含めて)の更なる進展が期待されます。本研究はマサチューセッツ州立大学のZhao Yan(チャオ・ヤン)博士、東京医科歯科大学の酒巻有里子氏、岡崎三代名誉教授らと共同で行いました。またHepG2細胞を用いた解析は当研究室の西村多喜さん(現英国フランシス・クリック研究所)と田村律人さん(現感染研学振PD)が中心となって行いました。この場を借りて御礼申し上げます。