PubMedID | 31916398 |
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タイトル | NBR1-mediated p62-liquid droplets enhance the Keap1-Nrf2 system. |
ジャーナル | EMBO Rep, 2020 Jan 09;e48902, [Epub ahead of print] |
著者 | Sanchez-Martin P, Sou YS, Kageyama S, Koike M, Waguri S, Komatsu M |
- NBR1はp62の液相分離を促進することでNrf2を活性化する
- Posted by 順天堂大学医学部生理学第二 小松雅明、Sánchez-Martín Pablo
- 投稿日 2020/01/11
p62/SQSTM1(以降はp62とする)は、C末端側にユビキチン鎖と結合するユビキチン会合(UBA)ドメインを、UBAドメインの直前にはLC3あるいはGABARAPと結合するLC3-interacting region(LIR)を有する選択的オートファジーのアダプタータンパク質です。2018年、Li YuおよびSascha Martensのグループから、p62はユビキチン化タンパク質との結合により液−液相分離を起こし、液体様の性質を維持したまま濃縮(液滴化)することが報告されました。プロテオスターシスの異常などに応じてUBAドメイン内の405および409番目のセリン残基がULK1によりリン酸化されると、UBAドメインどうしの会合が解除されユビキチン鎖と結合可能となります。その後、ULK1、カゼインキナーゼ2またはTANK結合キナーゼ1により403番目のセリン残基がリン酸化されると、p62とユビキチン鎖との結合が増強します。その結果、p62は液−液相分離により液滴となるようです。最終的にp62液滴あるいはp62ゲル表面に沿ってオートファゴソームの形成が始まり、p62とLC3との相互作用依存的に分解されるモデルが考えられます。このLC3との結合に先立って、p62はLIR近傍のセリン残基のリン酸化依存的に隔離膜形成の上流因子FIP200と結合することが報告されました。この結合はLC3の結合と相互排他的であることから、FIP200の結合が解除されてからLC3への結合が起こると考えられます。
液滴は流動性と生化学反応が維持されている可逆的な構造体です。細胞内にはストレス顆粒、生殖顆粒や核小体など多数の液滴が存在しており、環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み、つまりロバストネスを制御します。多くのタンパク質が分離もしくは凝縮した液滴ではその内容物の濃度が高くなっており、様々な生化学的反応が効率よく進んでいます。p62液滴の生理的な意義は何であろうか?私たちは、プロテオスターシスの異常など選択的オートファジー誘導時(おそらく液滴形成時)にp62の349番目のセリン残基(S349)がリン酸化されるとp62とCullin 3型ユビキチンリガーゼのアダプタータンパク質Keap1とが直接に相互作用することを報告してきました。その結果、Keap1の標的である酸化ストレス応答のマスター転写因子であるNrf2が安定化、核内に移動し、抗酸化タンパク質の遺伝子発現を統一的に誘導されます。これは様々な内乱・外乱にもかかわらず機能を維持できる内的な仕組み、つまり細胞のロバストネスの一種と言えます。p62とKeap1複合体はオートファジーカーゴと共にオートファジー依存的に分解され、Nrf2活性化のシグナルをシャットダウンすると考えられます。
NBR1は、p62と同様のドメイン構造を有する選択的オートファジーアダプタータンパク質であり、ユビキチン化タンパク質、ペルオキシソーム、侵入細菌のオートファジー分解に関与することが報告されています。NBR1はN末端のPhox1 and Bem1p(PB1)ドメインを介してp62と結合し、オートファジーにより分解される選択的分解基質でもあります。興味深いことに、試験官内においてNBR1の存在下でp62の液−液相分離が促進されることが報告されました。p62が相分離する過程においてNBR1はp62に作用するのかもしれません。今回、私たちは細胞内のp62液滴形成およびNrf2活性化におけるNBR1の役割を調べました。マウス初代培養肝細胞にNBR1を発現させるとオートファジーによるp62の分解が特異的に阻害され、p62の蓄積・濃縮が起こるとともにNrf2の活性化に必要なS349のリン酸化が促進されることを見出しました。マウス初代培養肝細胞において内因性NBR1はストレスに応じて発現量が上昇し、p62を介したNrf2の活性化を増進しました。一方、NBR1を欠失したマウス初代培養肝細胞では、ストレスに応じたp62の蓄積・濃縮のみならず、Nrf2活性化も抑制されていました。これらのことは、NBR1はp62の液−液相分離を促進しp62液滴にKeap1を隔離することで、Nrf2を活性化させるストレス調節因子であることを意味します。