PubMedID | 32025038 |
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タイトル | Phase separation organizes the site of autophagosome formation. |
ジャーナル | Nature, 2020 Feb 05; [Epub ahead of print] |
著者 | Fujioka Y, Alam JM, Noshiro D, Mouri K, Ando T, Okada Y, May AI, Knorr RL, Suzuki K, Ohsumi Y, Noda NN |
- PASは液滴
- Posted by 微生物化学研究会微生物化学研究所 藤岡 優子
- 投稿日 2020/02/07
私達が最近報告致しました、PASの液−液相分離の論文について紹介させて頂きます。
酵母でPASが報告されたのは2001年になりますが、PASがどのような実体なのかは長らくわかっていませんでした。PASは過度的な構造体であること、その形成には天然変性タンパク質Atg13が重要な役割を担うことから、PASはAtgタンパク質が液−液相分離してできた液滴(メンブレンレスオルガネラ)ではないかと考え、その検証をすることにしました。
まず出芽酵母でPASの性質を様々な手法で詳細に調べたところ、Atg因子の出入りが活発で内部流動性も高いこと、融合やオストヴァルト熟成が見られることなどから、液−液相分離によってできた液滴であると結論づけました。そこで次に、精製タンパク質を用いてin vitroで初期PASの再構成実験を行いました。PASの構築を担うAtg1複合体は生理的条件下で液滴を形成し、融合して球形になるなど液体の性質を示しました。高速AFMで液滴を観察するとランダムに揺れ動くAtg17のS字構造が見えました。PASの形成を阻害するAtg13やAtg17の変異は液滴形成も阻害し、PASの阻害に働くTORC1および促進に働くホスファターゼは液滴形成も同様に阻害あるいは促進しました。PASは液胞膜タンパク質Vac8依存的に液胞膜に繋留されますが、液滴もまたVac8を結合させた巨大リポソームに繋留され、膜上で液体の性質を保持しました。以上の結果からAtg1複合体の液滴が初期のPASの実体であると考えられます。液滴状態のPASがAtg1の活性化など、オートファジーの進行に必要なイベントの反応場として働くと考えられます。
ここからは長い余談になります。2016年に初めて液−液相分離を試みた時のノートを見返すと、よくここまで実験してきたと感心します。当初は細胞内クラウディング環境を模すという目的でPEGを添加していました。他の論文を見る限り、当時はそれが主流でした。しかし、PEGを加えるとPAS形成に必須なAtg13とAtg17の特異的相互作用がなくても、液滴が形成されました。これには困りました。自分は何を見ているのだろうと。天然変性領域とPEGの相性が良く、生理的な機能の有無にかかわらず液滴ができやすくなるのだと思います。検討の末、Atg13のC末端のMBPタグを除くとPEGが不要になり、バッファー条件の制御だけでAtg17との2点結合依存的な液滴ができるようになりました。
全てが初めての実験で、教えてくれる人もおらず、どちらかというと周りから白い目で見られ、やっている本人も実験に確信が持てず、、、一度目の投稿はリジェクトだったのですが、レビュアーの助言が非常に有用で励まされました。課題をクリアして再投稿し、アクセプトに漕ぎつけました。
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おめでとうございます!私も近くでこの研究の進展を見させていただきましたが、素晴らしい結果になり本当に良かったと思います(私も正直PEGを使われていた頃はう〜んと思っていましたが)。
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in vitroで再構成した液滴はAtg1複合体しか含めておりませんので、「初期のPAS」というように心がけたいと思います。ただ今回の論文で酵母のPASを観察している際は、Atg11を除きすべてのAtgが存在しています。ですから、液体の性質(融合能など)は初期に限らず(バルクの)PASが持っている性質と考えられます。分子の出入りについてはAtg1、Atg13、Atg17しか見ておりませんので、下流のAtgの場合は出入りが遅いものとか、液滴内部に入れないものとかもあるかもしれません。
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元々PASは、Atgタンパク質の集合体・隔離膜・オートファゴソームを含むものとして定義されました。そういった経緯を踏まえると、足場タンパク質複合体の集合体を初期のPASと呼ぶことは適切だと思います。中期・後期PASについて、今後の研究の進展が期待されますね。
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あぁ、、隔世の感があります。
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北大の稲垣研で私達がオートファジーを始めたのが2002年のことです。あの頃はまだAtgはApgでしたし、タンパク質のかたちは何もわかっていませんでした。現在では主要なAtgタンパク質のかたちは理解されつつあり、それを土台にPASの性質を議論しているのですから、確かに隔世の感はありますね。川俣さんがatg11欠損株を使ってPASの可逆的形成を示された論文が、今回の仕事の土台の1つになっています!
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