PubMedID 32556086
タイトル Critical role of mitochondrial ubiquitination and the OPTN-ATG9A axis in mitophagy.
ジャーナル J Cell Biol, 2020 Sep 07;219(9);
著者 Yamano K, Kikuchi R, Kojima W, Hayashida R, Koyano F, Kawawaki J, Shoda T, Demizu Y, Naito M, Tanaka K, Matsuda N
  • マイトファジーにおける OPTN-ATG9 相互作用の重要性
  • Posted by 東京都医学総合研究所 基礎医科学研究部門 松田憲之
  • 投稿日 2020/08/13

遅くなってしまいましたが、我々が JCB に発表した論文を紹介させて頂きます。本研究は、都医学研ユビキチンプロジェクト(山野晃史研究員ら)と、国立医薬品食品衛生研究所の内藤幹彦博士・出水庸介博士・正田卓司博士らとの共同研究です。

我々は、遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるPINK1(セリン・スレオニンキナーゼ)とParkin(ユビキチン連結酵素:E3)が連動して損傷ミトコンドリアの外膜タンパク質をユビキチン化することで、マイトファジーを誘導する仕組みを研究しています。哺乳類細胞では、ユビキチンとLC3に結合できる5種類のオートファジーアダプター(p62, NBR1, NDP52, OPTN, TAX1BP1)が知られており、全てがPINK1/Parkinによってユビキチン化された損傷ミトコンドリアに局在化します。一方で遺伝子破壊実験から、このマイトファジーにおいてはOPTNとNDP52が主に機能する(Lazarouら Nature 2015)ことが示されていますが、オートファジーアダプターの機能の差を生み出すメカニズムは不明でした。

我々はまず、直鎖状ユビキチン鎖を人為的にミトコンドリア外膜上に局在化させることや、SNIPERと呼ばれる化合物で特定のミトコンドリア外膜タンパク質にユビキチン鎖を付加させることで、マイトファジーが誘導できることを見出しました。これらの結果は、ミトコンドリア表面でユビキチン鎖が形成されることがマイトファジーの必要条件であることを示しており、PINK1それ自身の損傷ミトコンドリアへの蓄積や、PINK1が産生するリン酸化ユビキチンはParkinの活性化に必須であるものの、オートファジーシグナルとして直接機能するものではないことを示唆しています。

次に、ユビキチン鎖を認識したNDP52やOPTNと結合して、ユビキチン鎖をオートファジーシグナルに変換する分子の実態に迫りたいと考えました。ただし、定法による「アダプター分子の相互作用因子のスクリーニング」は既に行われているので、我々が以前(Koyanoら Nature 2014; Yamanoら JBC 2015)にも使用していたFluoppiシステム(Watanabeら Sci Rep 2017)を用いて、この課題に挑みました。

Ashタグをユビキチン鎖に融合したタンパク質と、アザミグリーン(AG)をOPTNに融合したタンパク質を細胞内で共発現させて、液滴を形成させた後に、この液滴中に様々なオートファジー関連因子が含まれるかどうかを検討しました。その結果、ATG9AがOPTNとユビキチン鎖の形成する液滴中に含まれることを発見しました。他のオートファジーアダプター(NDP52, p62, NBR1)とユビキチンの形成する液滴中にATG9Aは含まれないことから、OPTN - ATG9A間に特異的相互作用があることが示されました。

最後に、OPTN - ATG9A間の相互作用がPINK1/Parkinの誘導するマイトファジーに必要かどうかを検討しました。OPTNとATG9Aとの結合に必須な部位がロイシンジッパードメインであることを解明し、このロイシンジッパードメインに変異を導入したOPTN(4LA)を作製しました。OPTN(4LA)はユビキチン鎖と液滴を形成しますが、ATG9Aの液滴への局在能は完全に失われました。さらに、全てのオートファジーアダプターを破壊した細胞(penta KO 細胞)に野生型OPTNまたはOPTN(4LA)を入れ戻して、マイトファジー活性を測定しました。Mt-keimaを用いてマイトファジー活性を定量的に測定したところ、野生型OPTN細胞に比較してOPTN(4LA)細胞ではマイトファジー活性が1/4まで低下しました。この結果から、OPTN - ATG9A間の相互作用がPINK1/Parkinの誘導するマイトファジーに非常に重要であることが示されました。なお、OPTN(4LA)にLC3との結合を阻害する変異(F178A)をさらに導入すると、マイトファジー活性は完全に消失しました。

今後はOPTN以外のオートファジーアダプターについても新たな相互作用因子を探索することで、選択的オートファジーの分子基盤の理解を深めていきたいと考えています。