PubMedID 33439214
タイトル Transmembrane phospholipid translocation mediated by Atg9 is involved in autophagosome formation.
ジャーナル J Cell Biol, 2021 Mar 01;220(3);
著者 Orii M, Tsuji T, Ogasawara Y, Fujimoto T
  • オートファゴソーム形成にはAtg9によるリン脂質の膜横断輸送が関わる
  • Posted by 順天堂大学 辻琢磨
  • 投稿日 2021/01/14

 最近発表した私達の論文を紹介させていただきます。隔離膜伸長に必要な膜脂質の大半は小胞体から供給され、Atg2が小胞体・隔離膜間の輸送を担うと考えられています。しかし隔離膜の細胞質側に到達した膜脂質が内腔側に行き渡る機構は謎でした。昨年、野田展生先生のグループから発表された論文(Matoba et al, Nat Struct Mol Biol, 2020)でリポソームに組み込まれたAtg9が脂質スクランブラーゼ活性を持つことが示されましたが、実際に酵母細胞内のオートファゴソームで脂質スクランブリングが起こっているのか否かは不明でした。私達は以前にホスファチジルイノシトール3リン酸(PI3P)が酵母オートファゴソーム膜の脂質二重層の両層に分布していることを報告しました(Cheng et al, Nat Commun, 2014)。この結果は脂質スクランブリングで説明可能ですが、オートファゴソーム形成にスクランブリングが関わるとすると、含量の多いホスファジチルコリンなどのメジャーなリン脂質も同様に分布するはずと考えられます。今回、膜脂質の詳細な分布を解析できる急速凍結・凍結割断レプリカ標識法でホスファジチルコリン (PC)、ホスファジチルセリン、PI4Pの分布を解析したところ、これらのリン脂質もオートファゴソーム膜の脂質二重層両層にほぼ対称性に分布していることがわかりました。次にコリンアナログを短時間投与して新規合成PCだけを標識したところ、オートファジーを起こしている細胞では、新規合成PCはERに連続する外核膜や液胞膜などにはほとんど分布せず、オートファゴソーム膜に優先的に取り込まれること、またオートファゴソーム膜では合成後30 分以内にすでに対称性に分布することが分かりました。さらに、リポソーム実験で脂質スクランブラーゼ活性が低かったAtg9変異体を発現させた細胞では、新規合成PCがオートファゴソーム膜の細胞質側に偏って分布することが明らかになりました。これらの結果はAtg9が酵母細胞の隔離膜でも脂質スクランブラーゼとして働き、膜伸長に寄与することを強く示唆しています。
 この論文の重要な結論はオートファゴソーム脂質の対称性分布にAtg9が関わるということですが、おもにERで合成されるはずの新規合成PCがオートファジー時にはER・核膜などにはほとんど見られず、大半がオートファゴソーム膜に取り込まれるという発見も非常に重要です。膜脂質の拡散速度の速さを考えると、何か特別な仕組みがあるはずで、今後追究して行きたいと考えています。また哺乳類細胞ATG9Aも酵母Atg9と同様にリポソームでスクランブラーゼ活性を示しますが、哺乳類オートファゴソーム膜のPI3Pはほとんどが細胞質側に分布します(Cheng et al, Nat Commun, 2014)。酵母と哺乳類の差がなぜ生じるかについての考察も論文に記載しましたので、ご覧いただき、ご批判を頂ければ幸いです。

 当研究室ではオートファジーにおける膜脂質の分布・動態の解析を進めており、野田展生先生を研究代表者とするCRESTのプロジェクトでは博士研究員を募集しています(https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=3&id=D120111056&ln_jor=0)。ご興味のある方はぜひ辻(t.tsuji.zh@juntendo.ac.jp)までご連絡ください。よろしくお願いいたします。