PubMedID | 33397898 |
---|---|
タイトル | p62/SQSTM1-droplet serves as a platform for autophagosome formation and anti-oxidative stress response. |
ジャーナル | Nature communications 2021 01;12(1):16. |
著者 | Kageyama S, Gudmundsson SR, Sou YS, Ichimura Y, Tamura N, Kazuno S, Ueno T, Miura Y, Noshiro D, Abe M, Mizushima T, Miura N, Okuda S, Motohashi H, Lee JA, Sakimura K, Ohe T, Noda NN, Waguri S, Eskelinen EL, Komatsu M |
- p62顆粒はオートファジーおよび抗酸化ストレス応答を制御する機能的液滴である
- Posted by 順天堂大学医学部 蔭山 俊
- 投稿日 2021/02/02
最近発表した我々の論文について紹介させていただきます。
肝臓がんや神経変性疾患病変部の細胞で確認されるp62顆粒は不可逆的な機能が失われた凝集体あるいは封入体と考えらえてきました。しかし、最近、p62顆粒は、その内部に流動性と生化学反応が維持されている可逆的な構造体、すなわち非膜型細胞小器官(液滴)の一種であることがわかってきました。一般に、液滴形成は環境の変化といった細胞外の影響によるストレス応答反応と考えられますが、p62顆粒の生理作用は不明でした。さらに、p62顆粒はオートファジーにより選択的に分解されることが示されてきましたが、その選択性を担う分子機構も未解明でした。そこで本研究ではp62顆粒の機能を明らかにすることを目的としました。
今回、我々は、 p62液滴には多数のオートファジー関連タンパク質が集積、p62液滴上で多数のオートファゴソームが形成されることを見出しました。p62液滴を囲い込むオートファゴソームの微細構造を観察するため電子線トモグラフィー観察を行ったところ、飢餓誘導性のオートファゴソームと異なり膜が複雑に入り組んだ構造が観察され、そのうち約半分のオートファゴソームがp62液滴を囲い込んでいました。選択的オートファジーにおける隔離膜形成の向きを規定する分子メカニズムを調べたところ、Giant unilamellar vesicles (GUVs)を用いたin vitroの実験からATG8ファミリーと分解基質であるp62との相互作用が隔離膜伸長の向きを規定していることが示唆されました。実際、LC3ないしはGABARAPファミリーと相互作用し選択的オートファジーを阻害する分子であるHyD-LIRプローブを発現した細胞では隔離膜がp62液滴を囲い込む頻度は減少し、p62の分解が抑制されていました。LC3/GABARAPと基質との結合が隔離膜伸長の向きを決定するこの結果は、マックスプランク研究所のRoland Lutz Knorr博士と水島昇先生らが最近報告した論文と一致するものです。次に、p62液滴の生理的意義を調べました。Keap1に結合し、Keap1とp62の相互作用を阻害する化合物であるKMN003を処理した結果、p62液滴に共局在していたKeap1が時間経過と共に消失しました。Keap1との結合能を欠失したp62液滴でNrf2が活性化されなかったことから、p62液滴はKeap1を隔離することでNrf2の活性化に働くと考えられます。最後に、HyD-LIRを肝臓特異的に発現するマウスを用いて生体内におけるp62顆粒選択的オートファジーの意義について検討しました。その結果、Nrf2活性化による代謝再編成(同化)とオートファジーによる異化の同時不全が肝障害を引き起こすことを初めて明らかにしました。
今回の結果はオートファジーによる選択的な液滴分解の生理機能をマウス個体で示した初めての成果であり、オートファジーや液滴の異常が関与する様々な疾患の発症メカニズムの解明につながる可能性があると考えています。