PubMedID 33771930
タイトル Methanol sensor Wsc1 and MAP kinase suppress degradation of methanol-induced peroxisomes in methylotrophic yeast.
ジャーナル Journal of cell science 2021 Mar;.
著者 Ohsawa S, Inoue K, Isoda T, Oku M, Yurimoto H, Sakai Y
  • メタノールセンサーWsc1とMAPKカスケードを介したペキソファジー抑制によるオートファジー基質選択性発現のメカニズム
  • Posted by (1) 京都大学農学研究科(現スイスFMI研究所), (2) 京都大学農学研究科 大澤 晋(1), 阪井康能(2)
  • 投稿日 2021/04/08

Journal of Cell Scienceにアクセプトされました論文について紹介させていただきます。

メタノール資化性(C1)酵母をメタノール(MeOH)培地に生育させると、菌体内容積の80%を占めるほど、MeOH代謝酵素群を含む大きなペルオキシソーム (Ps) が発達します。この細胞をグルコースやエタノールを炭素源とする培地にシフトすると、MeOH代謝に必要なPsは不要となるため、ペキソファジーレセプターAtg30のリン酸化が引き金となって、Atg30依存的にペキソファジーが誘導されます。我々は、C1酵母 Pichia pastoris (最近学名がKomagataella phaffiiに変わりました)において、メタノール濃度を感知する細胞表層センサータンパク質として、Wscファミリータンパク質Wsc1/Wsc3を報告していました (Ohsawa et al., Mol. Microbiol. 2017)。今回の論文では、このうちWsc1がPs合成だけでなく、MeOHが培養中に存在する時にはペキソファジーが誘導されないように、Atg30リン酸化ならびにペキソファジーを抑制していることを明らかにしました。さらに、MeOH 濃度を感知したWsc1が、出芽酵母におけるCell Wall Integrity (CWI) 経路に類似した経路であるMpk1を含むMAPKカスケードを介して転写因子Rlm1を活性化し、下流にある脱リン酸化酵素Ptp2A、Msg5の発現を活性化することでAtg30のリン酸化レベルを低く維持していることを見出しました。S. cerevisiaeにおいては、Mpk1がペキソファジーを正に制御していることがSubramaniらにより報告されていましたが (Manjithaya et. al., J. Cell. Biol. 2010)、今回の私達の結果は、P. pastorisではそれとは逆に、Mpk1 が負の制御をしていることを示しています。
C1酵母 Candida boidiniiもP. pastorisも、植物葉上においてメタノールを炭素源として増殖します。(Kawaguchi et al., PLoS One. 2011)。また、生きた植物葉上では、MeOH濃度が日周変動しており、それに応じて、Psの合成・分解が毎日繰り返され、MeOH代謝酵素だけでなくAtg30を含むATG遺伝子群が、葉上での増殖に必要でした。
生きた葉上にC. boidiniiを播種し、葉上から回収した酵母菌体を用いたウエスタン解析すると、バルクなオートファジーを示すGFP-Atg8のプロセシングは24時間昼夜を問わず観察されるのに対し、ペキソファジーは明期が始まってから、すなわち朝の時間帯に観察されます。このように貧栄養条件にあると考えられる自然界では、バルクなオートファジー分解が起こる中で、ペキソファジーを負に制御することで、オートファジーの選択性が発現されていると考えています。
従来、オートファジーの基質選択性は、レセプタータンパク質の選択的なリン酸化、すなわち正の制御により行われると主に考えられてきましたが、様々な環境ストレスが混在する自然界においては、このようなオートファジーの負の制御が重要な意味を持つことがあるのかもしれません。
 余談ですが、同じMeOH濃度に対する細胞内挙動を比較することは、実験的に容易ではありません。特に、本論文で用いたwsc1∆株はPs合成も低下するので、メタノール消費速度が野生株に比べ著しく低下し、株間の比較が難しい状況にありました。今回、2つのコンパートメントが半透膜で仕切られた「別府フラスコ」を用いることで、コンパートメント間で細胞が混合されることなく、同じMeOH濃度での培養が可能となりました。元々、化合物を介した微生物間相互作用を解析するために、東大名誉教授の別府先生により設計、作成されたものですが、簡便で色々な実験に利用できるツールだと思います。今回は、日本大学上田 賢志 先生のご好意でいただきました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。