PubMedID 33875662
タイトル Selectivity of mRNA degradation by autophagy in yeast.
ジャーナル Nature communications 2021 04;12(1):2316.
著者 Makino S, Kawamata T, Iwasaki S, Ohsumi Y
  • オートファジーによるmRNA分解には優先性がある
  • Posted by 東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 牧野 支保
  • 投稿日 2021/05/10

最近公開されました私たちの論文を紹介させて頂きます。理研の岩崎信太郎主任研究員との共同研究です。

 オートファジーは主にタンパク質の分解機構として解析が進められてきており、核酸分解に関する理解は遅れています。これまでにオートファジーで液胞に運ばれたRNAは、液胞内RNA分解酵素Rny1によってヌクレオチドとなり塩基にまで分解されるという一連の過程が見出されています(Huang, Kawamata et al., 2015)。しかし、分解されるRNAの優先性やその生物学的意義についてはほとんど分かっていませんでした。
 本研究では出芽酵母を用いてオートファジーによるRNA分解、特にmRNAに着目してその優先性を調べました。オートファジー誘導条件下(ラパマイシン処理)においてRny1欠損株から液胞を単離し、液胞に蓄積するmRNAをRNA-seqにより網羅的に解析しました。その結果、オートファジー依存的に分解されるmRNAには、分解されやすいものと分解されにくいものがあることが明らかになりました。優先的に分解されるmRNAにはアミノ酸生合成に関わる一群の遺伝子をコードするmRNAが含まれていることが分かりました。細胞内のそれらのmRNAは20~40%程度がオートファジーによる分解を受けていると見積もられ、合成されるアミノ酸量の減少に寄与している可能性が考えられます。また、分解される代表的なmRNAを用いた解析から、翻訳が始まりリボソームが結合しているmRNAはオートファジーによって分解されやすいことが明らかとなりました。加えて、オートファジーによる選択的な分解はmRNAの5´末端非翻訳領域で決められる翻訳時のリボソームとの結合の親和性に依存することが示唆されました。さらに、リボソームプロファイリングにより翻訳中のリボソームとmRNAとの結合を網羅的に解析したところ、オートファジー誘導時にリボソームとの結合を相対的に維持する傾向があるmRNAが優先的に分解されることが分かりました。以上の結果から、オートファジーによるmRNA分解には優先性があり、mRNA量の調節に寄与することが明らかとなりました。オートファジーは一部のmRNAを優先的に分解することで効率良く遺伝子の発現を調節していると考えられます。

 理研の岩崎さんには、留学先から帰国されラボを立ち上げられた直後から共同研究をはじめて頂きました。シーケンス解析のノウハウを一から教えて頂いたことで、研究が大きく進展するきっかけとなりました。本論文の根幹となるデータが得られたのは2017年でしたが、液胞に運ばれたmRNAを解析する実験系がこれまで無かったため、細胞全体のうちどの程度の割合で運ばれているのか、個別のmRNAをどのように解析するか、一つ一つ手探りで進めていきました。幸いにもRNA側から解析しているグループは少ないため、腰を据えて研究に取り組むことが出来ました。今後は、様々な飢餓条件での優先性や、オートファジーによって一部のmRNAが優先的に分解されるメカニズムと生理的意義を明らかにしていきたいと考えています。