PubMedID 32647231
タイトル Visualization of cytoplasmic organelles via in-resin CLEM using an osmium-resistant far-red protein.
ジャーナル Scientific reports 2020 07;10(1):11314.
著者 Tanida I, Kakuta S, Oliva Trejo JA, Uchiyama Y
  • Visualization of cytoplasmic organelles via in-resin CLEM using an osmium-resistant far-red protein.
  • Posted by 順天堂大学大学院 医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センター 谷田 以誠
  • 投稿日 2021/06/17

CLEM解析は形態解析で汎用されますが、細胞全体や組織を広くCLEM解析しようとすると蛍光と電子線の相関精度が問題となっておりました。そこで高精度のCLEMを目指して、蛍光タンパク質を使ってエポン樹脂包埋試料のin-resin CLEMを試みていました。

高精度のCLEMを可能にするためには、電子顕微鏡用の生体試料において、蛍光タンパク質の蛍光が保持されることが必須です。ところが、電子顕微鏡の生体試料作製過程では、細胞のタンパク質や生体膜を薬品で固定、脱水、樹脂への包埋・重合反応を行う必要があるため、これらの処理過程で蛍光タンパク質の多くは蛍光を発する能力を失ってしまいます。そこで、我々は蛍光能が最も消失する処理過程である生体膜の染色直後に着目し、細胞内で蛍光を保持できる蛍光タンパク質を探しました。その結果、遠赤色蛍光タンパク質のひとつが蛍光能を保持できることを見出しました。次に、その遠赤色蛍光タンパク質を発現させた細胞に対して電子顕微鏡用の試料処理を行い、電子顕微鏡観察に使う100nm厚の超薄切片を作製し、蛍光顕微鏡で観察したところ、細胞内に遠赤色の蛍光が観察できました。さらに、同じ超薄切片をそのまま電子顕微鏡でも観察することに成功しました。本手法により、同一の超薄切片での蛍光観察と電子顕微鏡観察が可能となったことで、これまで問題となっていた化学的・物理的歪みの問題が解消され、理論上は電子線および蛍光波長による差異のみしか残らないことになります。これにより、極めて歪みの少ない高精度のCLEM(エポキシ樹脂包埋試料によるIn-resin CLEM)が可能となりました。そこで遠赤色蛍光タンパク質をミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体の細胞小器官それぞれに発現させて、電子顕微鏡用の試料処理を行いました。その結果、蛍光観察で光る部位が、実際にミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体であることを電子顕微鏡像で確認できました。以上の結果により、電子顕微鏡用の樹脂包埋試料内で蛍光を発する遠赤色蛍光タンパク質を同定し、電子顕微鏡用試料における細胞小器官の高精度の光線−電子相関顕微鏡法(In-resin CLEM)を世界で初めて成功させました。

 赤色蛍光タンパク質を用いた手法はこの数年前に開発していたのですが、技術的な論文であったため、投稿したすべてのCell Biologyの論文で受け入れてもらえず、途方にくれていました。直後にmEosEMという緑色蛍光タンパク質をもちいた類似の研究がNat Methodsに発表され、そのあとに投稿したScientific Reportsでは、比較的すんなり通り、タイミングの悪さと要領の悪さを痛感しました。