PubMedID 34535752
タイトル A glutamine sensor that directly activates TORC1.
ジャーナル Communications biology 2021 09;4(1):1093.
著者 Tanigawa M, Yamamoto K, Nagatoishi S, Nagata K, Noshiro D, Noda NN, Tsumoto K, Maeda T
  • A glutamine sensor that directly activates TORC1.
  • Posted by 浜松医科大学・医学部 谷川 美頼
  • 投稿日 2021/09/27

浜松医科大学・前田研究室の谷川美頼と申します。最近受理されました私たちの論文を紹介させてください。

 細胞内で最も多量に存在するアミノ酸であるグルタミンはmTORC1(酵母ではTORC1)をよく活性化します。このグルタミンによるTORC1の活性化はよく研究されているRag複合体(酵母ではGtr複合体)を介した経路とは独立してなされ、酵母では液胞膜タンパク質Pib2が必須であることを私達は明らかにしてきました。ですが、グルタミンが何によって検知され、どのようにPib2を介したTORC1の活性化が引き起こされているのか、そのメカニズムは未知でした。
今回私たちは酵母より精製したTORC1、組換え体として大腸菌より精製したPib2のみを用いたin vitroの実験で以下のことを明らかにしました。
・グルタミン存在時にPib2とTORC1は結合する。
・TORC1をグルタミンおよびPib2とインキュベートするとTORC1が活性化される
・Pib2はグルタミン存在時に折り畳み状態に変化が起きる
これらのことはPib2が細胞内グルタミンセンサーであるとともにTORC1の直接の活性化因子であることを示しています。

 酵母は自身で20種のアミノ酸を合成することができ、必須アミノ酸が存在しません。よってTORC1の上流で各々のアミノ酸を検知するよりも、細胞内の窒素源プールの大きさを検知する方が理にかなっていると思われます。酵母は窒素源プールの大きさを表す指標として、細胞内で最も多量に存在するアミノ酸=グルタミンを検知しているようです。Pib2とグルタミンさえあればTORC1を活性化できる。このシンプルすぎるメカニズムは、栄養検知・応答の進化的に古い基本的な姿なのだろうと思っています。

 また、とても興味深いことに、Pib2によるTORC1の活性化はグルタミンに特異的で他のアミノ酸ではおこりません。一方で細胞内の遊離グルタミンが数mM~数十mMと高濃度であることを反映してPib2によるグルタミン応答を引き起こすにはmMレベルのグルタミンが必要です。つまりセンサーPib2とグルタミンとの結合は、「結合が弱く特異性が高い」ということになります。これは一般的な鍵と鍵穴モデルでは説明のつかない現象です。今後、どのようにPib2がグルタミンとの弱く特異性の高い結合を達成しているのかを明らかにすることで、高濃度メタボライトを特異的に検知する機構のモデルが提唱できるのではないかと期待しています。