PubMedID | 35417087 |
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タイトル | Phosphorylation by casein kinase 2 enhances the interaction between ER-phagy receptor TEX264 and ATG8 proteins. |
ジャーナル | EMBO reports 2022 Apr;e54801. |
著者 | Chino H, Yamasaki A, Ode KL, Ueda HR, Noda NN, Mizushima N |
- カゼインキナーゼ2によるTEX264のリン酸化はLC3/GABARAPファミリーとの結合に重要
- Posted by 東京大学大学院医学系研究科 分子生物 (現所属:HMS) 千野 遥
- 投稿日 2022/04/19
最近 EMBO reportsに掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。
私たちは2019年に新規の小胞体オートファジー(ER-phagy)レセプターTEX264を同定しました(Chino, et al. Mol Cell)。TEX264は小胞体膜タンパク質で、細胞質側にオートファゴソーム膜上のタンパク質LC3/GABARAPファミリータンパク質と結合するLC3結合部位(LIR)を有し、その相互作用を介してオートファゴソーム上に小胞体を誘導し分解するレセプターとして機能していることを報告しました。しかし、TEX264のLIRに高度に保存されたセリン残基の意義やLC3/GABARAPとの結合の構造解析に関しては未解明でした。今回、私たちはTEX264のLIRのセリン残基がカゼインキナーゼによりリン酸化され、そのリン酸化がLC3/GABARAPファミリーとの結合に重要であり、他の負電荷アミノ酸では代替できない水素結合を形成することを発見しました。
私たちは、質量分析を用いてTEX264のLIRのセリン残基がリン酸化されることを確認しました。また、LIRのセリン残基S271,S272をアラニンに置換した変異体ではLC3/GABARAPファミリータンパク質との結合は顕著に減弱し、ER-phagyレセプター機能を失うことが分かりました。次に、TEX264のS271.S272のリン酸化抗体を作成し、これらのセリン残基のリン酸化がカゼインキナーゼ2阻害剤存在下で抑制されること確認しました。更に、カゼインキナーゼ2阻害剤存在下ではTEX264のオートファゴソーム局在が抑制されることから、TEX264のLIRのセリン残基はカゼインキナーゼ2によりリン酸化され、それがTEX264のLIR機能に重要であることが示唆されました。
これまでLIRはグルタミン酸やアスパラギン酸、リン酸化セリンなどの負電荷アミノ酸がLC3/GABARAP結合に重要であることは知られておりましたが、TEX264の場合、セリン残基をグルタミン酸やアスパラギン酸に置換するとLC3/GABARAP結合が減弱することを確認しました。GABARAPL1との結合構造解析の結果からTEX264のLIRのリン酸化セリンはグルタミン酸では見られない水素結合をGABARAPL1との間に形成し、それによってより強固な結合が可能になることが分かりました。他のER-phagyレセプターはLIRのC末端にαヘリックスを持つことで、LC3と強い結合を可能にしていますが、C末端にαヘリックスを持たないTEX264はLIRのリン酸化セリンにより他のER-phagy同様に強い結合を可能にしていることが分かりました。
当初、リン酸化の制御を明らかにすべく、いろいろな条件でリン酸化状態を解析しておりましたが、変化を見ることができず論文化を断念するかと思いましたが、野田展生教授との共同研究により構造解析の結果から面白い結果を得ることができ、論文化に至りました。
TEX264のLIRのリン酸化がどのように制御されているのかは今後の課題です。
本研究は、微生物化学研究所(現 北海道大学遺伝子病制御研究所)の野田展生教授、山崎章徳博士、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室の上田泰己教授、大出晃士講師と共同で行いました。
私事ですが、論文を投稿して2週間後に第1子を出産しました。産休中に査読コメントをいただき、産休復帰後にすぐにRevise実験を始めることができ、産休期間を有効に活用することができました。更に、アクセプトのお返事をいただいて2日後に留学のために渡米することができました。このような計画的な論文投稿ができたのは水島教授の御配慮のおかげだと思っております。また、今回は時間がなかったこと、投稿先に悩み、査読コメントをもらってから投稿先を4つまで選ぶことができる、Review Commonsのシステムを利用しました。このシステムは、査読の時間を節約できるという利点はありますが、投稿先の幅が広いので厳しめのコメントをもらうとそれを引きずることになるという欠点もありましたが、優しいコメントををいただき、EMBO reportsに投稿することができました。この論文をまとめるにあたり支えていただきました技術員の泉さん、鈴木さん、そして共同研究の野田展生教授、本当にお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。