PubMedID | 37192622 |
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タイトル | Integrated proteomics identifies p62-dependent selective autophagy of the supramolecular vault complex. |
ジャーナル | Developmental cell 2023 May;. |
著者 | Kurusu R, Fujimoto Y, Morishita H, Noshiro D, Takada S, Yamano K, Tanaka H, Arai R, Kageyama S, Funakoshi T, Komatsu-Hirota S, Taka H, Kazuno S, Miura Y, Koike M, Wakai T, Waguri S, Noda NN, Komatsu M |
- 「ヴォルトファジー」(細胞小器官”vault”の選択的オートファジーによる分解)の発見
- Posted by 順天堂大学医学部 来栖 玲央
- 投稿日 2023/05/18
Developmental Cell誌に掲載された私たちの最近の成果を紹介させていただきます。本研究の共同筆頭著者(来栖、藤本、森下)のうち、私と藤本侑生さんはそれぞれ順天堂大学基礎研究医養成プログラムに所属する順天堂大学医学部の5、6年生であり、本研究は共同責任著者である森下英晃博士、小松雅明博士のご指導のもと実施いたしました。
p62 bodyはp62とポリユビキチン化タンパク質の液−液相分離によって形成される液滴であり、肝細胞がんの抑制などに重要な役割を担っています。近年、p62 bodyの形成・分解機構については精力的に研究されてきましたが、一方で、p62 bodyの内容物についてはほとんど不明であり、これまでにNBR1やTAX1BP1などのレセプターに加えてKEAP1などいくつかのタンパク質が知られているだけでした。
今回私たちはp62 bodyに含まれる選択的オートファジーの基質の同定を目的として、まずGFP-p62発現ヒト培養細胞の細胞破砕液からセルソーターを用いてp62 bodyを精製する手法を確立しました。本法ではp62 bodyの流動性を低下させるNBR1を共発現させることで、p62 bodyの精製効率を上げることができることを見出しました。私たちは、本法を用いて精製したp62 bodyのプロテオーム解析の結果と、選択的オートファジー阻害プローブHyD-LIR-Venusを肝臓特異的に発現したマウス(HyD-LIR-Venusf/f; Alb-Cre)の肝臓のプロテオーム解析の結果を組み合わせることで、p62液滴中に含まれる生理的に重要な基質タンパク質を同定しました。その結果、p62 bodyを介した選択的オートファジーの新規基質として、巨大なタンパク質複合体vaultを同定し、この新しいオートファジー現象を”vault-phagy”と名付けました。Vaultはリボソームの3倍もの大きさをもつ機能不明のタンパク質複合体であり、その大きさから細胞小器官の一種と捉えられています。Vault 1分子は78分子のMVPタンパク質、数分子のPARP4およびTEP1タンパク質、数コピーのnon-coding RNA(vtRNA)で構成されます。私たちはvaultの外殻を構成するタンパク質MVPがNBR1のUBAドメインとユビキチン非依存的に結合することで、vaultがp62 bodyへリクルートされること、野生型p62はp62 bodyを形成しないp62変異体(p62 K7A/D69Aとp62ΔUBA)よりも強くvault-phagyを誘導することを見出しました。さらにvault-phagyは生体内においてvaultの恒常的な量的制御に必須であること、p62 bodyの分解不全を伴うNASH由来肝細胞がんの腫瘍部ではMVPが蓄積しており、特にMallory-Denk体上にMVPの蓄積を認めることを明らかにしました。最近、MVPの発現亢進は肝細胞がんを増悪させることが報告されていますので、以上の結果は、p62 bodyを介したMVP分解の低下がNASH由来肝細胞がんの増悪に関わる可能性を示唆しています。
本研究により、巨大なタンパク質複合体のp62 bodyを介した効率的分解という、プロテアスタシスにおける液−液相分離の新たな役割が明らかになりました。今回私たちが開発したp62 bodyの精製法は、がんや神経変性疾患といったオートファジー関連疾患の解析にも適応できると考えています。
最後に、実験から論文執筆まできめ細やかなご指導をいただきました森下英晃博士、小松雅明博士、p62 bodyの精製法の確立に貢献いただいた高田周平さん(小松研究室博士課程3年)、各種解析を実施いただいた小松研究室の蔭山俊博士、船越智子博士、小松(廣田)聡子さん、順天堂大学の三浦芳樹博士、高ひかり博士、數野彩子博士、小池正人博士、北海道大学の野田展生博士、能代大輔博士、福島県立医科大学の和栗聡博士、荒井律子博士、東京医科歯科大学の山野晃史博士、大阪大学の田中秀明博士、新潟大学の若井俊文博士にこの場を借りて感謝いたします。
本研究の詳細についてはプレスリリース(https://www.juntendo.ac.jp/news/00057.html)をご参照ください。