PubMedID 37306101
タイトル Phosphorylation of phase-separated p62 bodies by ULK1 activates a redox-independent stress response.
ジャーナル The EMBO journal 2023 Jun;e113349.
著者 Ikeda R, Noshiro D, Morishita H, Takada S, Kageyama S, Fujioka Y, Funakoshi T, Komatsu-Hirota S, Arai R, Ryzhii E, Abe M, Koga T, Motohashi H, Nakao M, Sakimura K, Horii A, Waguri S, Ichimura Y, Noda NN, Komatsu M
  • 相分離したp62顆粒のULK1によるリン酸化は、酸化還元非依存的なストレス応答を活性化する
  • Posted by 新潟大学医歯学総合研究科 博士課程 生体機能調節医学専攻 感覚統合医学大講座 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 池田 良
  • 投稿日 2023/06/13

The EMBO journal誌に掲載された私たちの研究成果を紹介させて頂きます。
私は新潟大学大学院博士課程(小松雅明研究室)において順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学分野 小松雅明先生、一村義信先生、北海道大学遺伝子病制御研究所生命分子機構分野 野田展生先生のご指導のもと今回の研究を遂行しました。

細胞の酸化ストレス応答は、KEAP1-NRF2経路により一元的に制御されています。これまで、細胞はKEAP1の特異的なシステイン残基が酸化修飾されることで酸化ストレスを感知し、転写因子NRF2を活性化、一連の抗酸化タンパク質の遺伝子発現を誘導することが知られていました。これとは別に、私たちのグループは、先の研究でストレスに応じてp62の349番目のセリン残基 (Ser349)がリン酸化されるとp62とKEAP1との相互作用が増強し、その結果としてNRF2を活性化するp62-KEAP1-NRF2経路を報告しました (PMID: 24011591)。しかし、p62のSer349のリン酸化を担うキナーゼは不明であり、p62-KEAP1-NRF2経路の生体内における意義についても不明なままでした。
今回、私たちは高速原子間力顕微鏡観察からULK1とp62とが互いの天然変性領域を介して直接相互作用すること、in vitroリン酸化アッセイによりULK1がp62のSer349をリン酸化することを見出しました。p62はユビキチン化タンパク質と結合することで液―液相分離を引き起こし、p62 bodyと呼ばれる非膜オルガネラを形成します。細胞内においてULK1はFIP200非依存的にp62 bodyに局在し、ULK1の特異的阻害剤処理によりp62 body内のS349リン酸化p62、そしてKEAP1のシグナルが減弱することが分かりました。さらに、光退色後蛍光回復や光退色後蛍光損失法よりS349リン酸化不能p62変異体からなるp62 bodyにはKEAP1は細胞質とp62 bodyとの間で平衡状態にある一方、S349リン酸化模倣p62変異体からなるp62 bodyではKEAP1はp62 body内部に流入できるもののp62 bodyからの流出が減少することがわかりました。つまり、ULK1によるp62 bodyのリン酸化はKEAP1をp62 body内に維持することが判明しました。この経路は酸化還元状態に影響されないことから、Redox-independent stress responseと名付けました。最後に生体におけるRedox-independent stress responseの意義を調べるために、S349リン酸化模倣p62ノックインマウス(ヘテロ個体)を作製したところ、この変異マウスは恒常的にNRF2が活性化されており、それにより食道や前胃上皮細胞が過角化を起こし、食道や前胃の閉塞が確認されました。その結果、S349リン酸化模倣p62ノックインマウスは重篤な栄養失調や脱水症状を呈しました。これらの表現型はKEAP1ノックアウトマウスのフェノコピーであり(PMID: 14517554)、Redox-independent stress responseが生体内で重要であることを意味します。S349リン酸化模倣p62ノックインマウスやKEAP1欠損マウス(つまりNRF2恒常的活性化マウス)で食道や前胃上皮細胞の過角化が起こる意義は不明ですが、食道や胃は様々な毒性のある食飲料に暴露されているため、それらストレスに対する生体防御を担っているのかもしれません。本研究は、細胞のストレス応答機構や液–液相分離の生理的役割について新たな知見を与えるものと考えています。
最後に、本研究と論文執筆にあたりご指導いただきました小松雅明先生、一村義信先生、野田展生先生をはじめ、小松研究室の森下英晃先生、高田周平さん、蔭山俊先生、船越智子先生、小松(廣田)聡子さん、北海道大学の能代大輔先生、藤岡優子先生、福島県立医科大学の和栗聡先生、荒井律子先生、Elena Ryzhii博士、新潟大学脳研究所の崎村建司先生、阿部学先生、熊本大学の中尾光善先生、古賀友紹先生、東北大学の本橋ほづみ先生、基礎研究に専念する機会を与えていただいた新潟大学耳鼻咽喉・頭頸部外科の堀井新先生にこの場をお借りして御礼申し上げます。