PubMedID 37726301
タイトル A mechanism that ensures non-selective cytoplasm degradation by autophagy.
ジャーナル Nature communications 2023 Sep;14(1):5815.
著者 Kotani T, Sakai Y, Kirisako H, Kakuta C, Kakuta S, Ohsumi Y, Nakatogawa H
  • 隔離膜の“口”を大きくする因子を発見
  • Posted by 東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 小谷 哲也
  • 投稿日 2023/10/06

先日受理されました私たちの論文を紹介させていただきます。

これまでに電子顕微鏡による観察で伸張中の隔離膜は開口部を大きく広げている様子が明らかとなっていました。隔離膜の開口部は非常に曲率が大きく、エネルギー的に不安定です。そのため、隔離膜が開口部を大きく広げるためにはこの部分を安定化させる因子が必要であることが数理解析から予想されていましたが、そのような因子はこれまで見つかっていませんでした。
 Atg24/Snx4はホスファチジルイノシトール3-リン酸 (PI3P)に結合するPXドメインと曲率の大きい膜領域を安定化しうるBARドメインを有するソーティングネキシンであり、別のソーティングネキシンであるAtg20/Snx42もしくはSnx41とヘテロ二量体(以降Atg24複合体と呼ぶ)を形成します。Atg24複合体はオートファジーに関わることが知られていましたが、詳細な機能はわかっていませんでした。
 本研究において、伸張中の隔離膜上でのAtg24複合体の局在を解析した結果、Atg24複合体は伸張中の隔離膜の開口端に沿ってリング状に局在することが分かりました。また大きさの異なるモデル基質を用いた解析により、Atg24複合体は約25 nm以上の大きさの細胞内成分をオートファジーで分解するために必要であることが明らかとなりました。これらのことからATG24欠失細胞では伸張中の隔離膜の開口部が狭く、大きな細胞内成分がその中に入ることができないという可能性が考えられました。
 次にAtg24複合体が隔離膜の開口部の大きさを制御しているかどうかを調べました。電子顕微鏡ではATG24欠失細胞での隔離膜の開口部を捉えることができず、開口部の大きさを測ることができませんでした(狭すぎるためだと考えています)。そこで蛍光タンパク質を付加したAtg24で隔離膜の開口部をリング状に可視化して、蛍光顕微鏡で観察し、そのリングの大きさを調べました。その結果、Atg20を欠失させたり、Atg24の発現量を下げたりすると、隔離膜の開口部が狭くなることが示唆されました。また、ATG24欠失細胞では隔離膜が細長いチューブ状に変形することが分かりました。この隔離膜の形態変化を引き起こすメカニズムについて、京都大学の境祐二さんに相談したところ、浸透圧による変形ではないか、とのアイデアをいただきました。ATG24欠失細胞ではリボソームなどの大きな細胞内成分が隔離膜の内部には取り込まれず、隔離膜の内部と細胞質の間にそれらの濃度差が生まれます。その濃度差によって生じる浸透圧が隔離膜の変形を引き起こしているのではないか、というものです。実際に、境さんによる数理モデル解析によって、隔離膜内外で数μMの濃度差が生じれば浸透圧によって隔離膜がチューブ状に変形しうることが示されました。リボソームの細胞質濃度は数μMと見積もられていることと、ATG24欠失細胞で隔離膜の中に入ることができない他の細胞内成分もあることを考えれば、この数μMの濃度差は十分達成し得ると考えています。
 最後にAtg24複合体依存的に大きな細胞質成分をオートファジーで分解することの生理的意義について解析をしました。ATG24欠失細胞では窒素源飢餓時の生存率が野生株に比べて低下することが明らかとなりました。このことから、大きな細胞質成分をオートファジーで分解することが窒素源飢餓時の細胞の生存に有利に働くことが示唆されました。
 本研究により、Atg24複合体が伸張中の隔離膜の開口部を広く維持することで、大きな細胞質成分まであらゆる細胞質成分をオートファゴソームへ取り込めるようにしていることが明らかとなり、Atg24複合体が非選択的オートファジーにおける“非選択性”を付与していると言えます。
 また、ATG24欠失細胞においても完成したオートファゴソームの大きさは野生株のものとほとんど変わりませんでした。このことはオートファゴソームの大きさは伸張中の隔離膜の開口部の大きさとは独立して制御されていることを示唆します。今後はオートファゴソームの大きさを制御するメカニズムの解明にも挑戦していきたいと思っています。

 本研究での数理モデル解析は京都大学の境祐二さん、連続切片電子顕微鏡解析は順天堂大学の角田宗一郎さんに行っていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。