PubMedID 37722055
タイトル Neuronal MML-1/MXL-2 regulates systemic aging via glutamate transporter and cell nonautonomous autophagic and peroxidase activity.
ジャーナル Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2023 Sep;120(39):e2221553120.
著者 Shioda T, Takahashi I, Ikenaka K, Fujita N, Kanki T, Oka T, Mochizuki H, Antebi A, Yoshimori T, Nakamura S
  • 神経系を起点とするオートファジー・寿命制御ネットワークを解明
  • Posted by 大阪大学大学院生命機能研究科 塩田達也
  • 投稿日 2023/10/10

先日、PNAS誌に掲載された私たちの論文をご紹介させていただきます。

線虫C. elegansなどのモデル生物を用いた解析により、生物の老化・寿命は積極的に制御された生命現象の一つであることが分かりつつあり、これまでにインスリン/IGF-1シグナルや生殖細胞除去など、進化的に保存された寿命延長経路が複数明らかにされてきました。我々は以前、これらの経路で共通して必須であり、寿命延長の鍵分子となりうる因子として転写因子MML-1/MXL-2複合体を同定しました (Nakamura et al., Nat Commun, 2016)。MML-1/MXL-2は複数の寿命延長経路で活性化され、オートファジーの活性化を寿命延長に寄与しています。近年の老化研究では、特定の臓器や組織が、いわば高次のコントロールセンターとして全身の老化・寿命を制御していることが明らかにされつつあります。長寿個体におけるMML-1/MXL-2の活性化は全身で起こりますが、どの組織のMML-1/MXL-2の働きが寿命制御に関与しているかは分かっていません。また、MML-1/MXL-2によるオートファジーの活性化、ならびに寿命の延伸がどのような下流メカニズムを介しているかも十分に理解されていませんでした。

今回我々は、線虫を用いたMML-1/MXL-2の組織特異的な解析を行い、神経特異的なMML-1/MXL-2のノックダウンにより寿命延長効果が完全に打ち消され、加齢に伴う運動機能や腸管機能の低下が加速することを見出しました。逆に、野生型の線虫の神経系でMML-1を活性化だけで寿命が延びることが分かりました。これらの結果から線虫の寿命制御において、神経系のMML-1/MXL-2が重要な役割を担うと考えました。次に、この寿命制御の下流メカニズムを明らかにするために、神経特異的mml-1/mxl-2ノックダウン線虫のトランスクリプトーム解析を実施し、神経系MML-1/MXL-2がグルタミン酸トランスポーター(GLT-5)の転写制御を行うことで寿命延長に寄与していることを見出しました。興味深いことに、長寿個体で神経特異的にMML-1/MXL-2あるいはGLT-5を抑制すると神経系だけでなく腸や筋肉などの遠位組織のオートファジー活性までもが低下することが観察されました。さらに、神経系MML-1-GLT-5軸はペルオキシダーゼMLT-7の全身レベルでの活性化にも寄与しており、これがオートファジー活性とは独立して、加齢に伴う活性酸素種の蓄積を抑制することで寿命延長に貢献していることも見出しました。これらの結果は、神経系MML-1-GLT-5軸が組織間ネットワークを介して全身レベルでオートファジー活性化や酸化ストレスを軽減することで老化を制御していることを示唆するものです。

最後に、この研究は大阪大学神経内科学の望月先生、池中先生を初め、新潟大学の神吉先生、多くの先生方のご協力で進めることができました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。