PubMedID 37917025
タイトル The mechanism of Atg15-mediated membrane disruption in autophagy.
ジャーナル The Journal of cell biology 2023 Dec;222(12):.
著者 Kagohashi Y, Sasaki M, May AI, Kawamata T, Ohsumi Y
  • The mechanism of Atg15-mediated membrane disruption in autophagy
  • Posted by 東京工業大学生命理工学院 / ポーラ化成工業株式会社 籠橋 葉子
  • 投稿日 2023/11/04

最近、Journal of Cell Biology に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。
 酵母においてオートファジーが誘導されると、細胞質成分を取り込んだ二重膜構造体が液胞と融合し、その内膜構造(オートファジックボディ、AB)が液胞内に放出されます。その後、AB膜が分解され、中の細胞質成分が液胞内加水分解酵素によって分解されます。これまで、AB膜分解に必要な中心的因子として、液胞内リパーゼであるAtg15、液胞内プロテアーゼであるPep4/Prb1などが同定されていましたが、これらの因子がどのように膜分解に関わっているのかは、長い間不明のままでした。今回、私たちは、Pep4/Prb1はAtg15のリパーゼ活性化とAB膜への局在の両方を制御していること、活性化したAtg15は幅広い基質特異性を持つホスホリパーゼBであることを明らかにしました。内容は以下のとおりです。

 Atg15はMVB経路により液胞に輸送されて働くことが、先行研究により知られています。私たちはまず、液胞におけるAtg15由来のリパーゼ活性を測定するin vitro系を確立しました。このリパーゼ活性は、Pep4とPrb1の破壊株では完全に失われていました。続いて、Atg15のN末端膜貫通領域を欠損させたトランケート体を用いて局在解析と生化学的解析を行いました。その結果、Atg15は液胞へ輸送された後、MVB小胞から切り離され、AB膜に結合することが分かりました。次に、Pep4/Prb1による切断を回避するためにAtg15の内部領域にタグをつけ、Pep4/Prb1存在下の液胞から精製しました。この精製Atg15は活性化型であり、様々な種類のリン脂質(PE, PS, PC, PI, PG)のsn-1,2位を切断することを見出しました。さらに、リポソームや単離したABを用いた膜分解活性の評価系を構築し、活性型Atg15が単独でリポソームやABを分解できることをin vitroで初めて示しました。
 本成果は、酵母でオートファジーが発見されて以来、約30年間停滞していた膜脂質分解の研究を進展させました。Atg15が種々のリン脂質を分解できるホスホリパーゼBであることは、液胞内に運ばれてきた様々な膜脂質を分解するのに適していると考えられます。この研究は、細胞内の脂質代謝サイクルへの理解を深めるだけでなく、さまざまな代謝性疾患の研究にも役立つことが期待できます。

 私は、京都大学の阪井研究室で修士課程を経てポーラ化成工業に就職しましたが、2019年より、大隅研究室で博士課程を過ごす機会に恵まれ、川俣さんと共に「AB膜分解メカニズムの研究」に取り組みました。研究開始時には、AB膜分解の因子は複数知られていました(Pep4/Prb1, Atg15, Atg22, V-ATPaseなど)。その状況下で"Atg15の活性を生化学的に捉えること"をミッションとして研究を続けていましたが難航し、この方向性のまま進めるべきか迷いが生じていました。ところが、単離した液胞の破砕液中にAtg15の活性を見出したところから突然転機がやってきました。特に4℃で数日間放置していた液胞破砕液から、強いリパーゼ活性が検出されたのです。この結果から、単離した液胞画分の中には"活性のあるAtg15"が存在することを確信し、Atg15を精製する方向に突き進みました。しかしその後、液胞破砕液から活性型Atg15を精製する過程も、試行錯誤を要しました。Atg15は非常に分解されやすいだけでなく、(膜貫通領域を欠失させても)膜に強く結合することや、凝集しやすいことに翻弄されましたが、最終的に無事精製し、活性評価に至りました(その後、幸運にもAlphafold2が現れ、野田展生先生に構造的な観点からご見解をいただいたことで、Atg15の精製がいかに難しいことだったかを改めて納得したのを覚えています)。本研究では、活性型Atg15の実体を明らかにすることはできませんでしたが、今後、構造解析などにより進展することを楽しみにしております。
 2021年10月のオートファジー研究会にて、本研究を初めて発表させていただきましたが、論文化までには2年もかかりました。その間、大隅研の先生方を始め、研究室外の様々な先生方にも議論をしていただき、密度の濃い刺激的な時間を過ごすことができました。現在は会社にて、学んだ知見を活かしながら製品開発を行っていますが、また機会を見つけて基礎研究に取り組めたらと思います。最後に、本研究を進める上で辛抱強く支えてくださった大隅研の皆様、およびポーラ化成工業に深く感謝申し上げます。