PubMedID 38057553
タイトル Complete set of the Atg8-E1-E2-E3 conjugation machinery forms an interaction web that mediates membrane shaping.
ジャーナル Nature structural & molecular biology 2023 Dec;.
著者 Alam JM, Maruyama T, Noshiro D, Kakuta C, Kotani T, Nakatogawa H, Noda NN
  • Atg8結合反応系は網目状の膜複合体を形成し膜を成形する
  • Posted by 微生物化学研究会微生物化学研究所 丸山 達朗
  • 投稿日 2023/12/07

最近、Nature Structural & Molecular Biology誌に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。
 オートファゴソームは隔離膜が内部へと膜嵌入を起こすことで形作られますが、この成形過程がどのような仕組みで起こっているのか明らかではありません。ユビキチン様タンパク質Atg8は、脂質化反応により隔離膜に局在します。そこで、私たちはAtg8の脂質化反応を試験管内で再構成し、脂質膜の形態変化を調べてきました。これまでに、脂質化Atg8が膜摂動活性を有しており、この活性はオートファゴソームを効率良く作るのに重要であることを報告しました(Maruyama T. and Alam M.J. et al., Nat. Struct. Mol. Biol. (2021))。しかしながら、膜嵌入を起こす活性は確認できず、オートファゴソームの成形過程における脂質化Atg8の役割は不明でした。このときの再構成は部分的であったため、Atg8の脂質化反応の構成要素(E1:Atg7, E2:Atg3, E3:Atg12-Atg5-Atg16複合体)を完全に再現したときに、どのような活性を示すのかを今回検証しました。
 隔離膜は非球状であるため、扁長状のリポソームを調製し、それに対してAtg8の脂質化反応を行い、膜形態に与える影響を共焦点顕微鏡にて観察しました。その結果、E1-E2-E3酵素群を全て含めた場合、脂質化Atg8の形成に伴って、扁長の脂質膜の一部が内部へと嵌入することが明らかになりました。Atg16のcoiled-coil domainを欠損させた場合には膜嵌入が起こらなかったことから、Atg16のcoiled-coil domainが膜嵌入に少なくとも必要であることが分かりました。次に各タンパク質の膜局在を調べると、脂質化Atg8とE2(Atg3)がほぼ同時に膜局在し、次いでE1(Atg7)、最後にE3(Atg12-Atg5-Atg16複合体)が膜局在することが分かりました。この脂質化Atg8とE1-E2-E3酵素群の集合体を高速AFMで観察すると、膜表面を覆うように、構造的に柔軟な網目状の高次複合体が形成されていることが判明しました。この高次複合体を、以下では膜複合体と呼びます。
 次に、膜複合体の形成を担う相互作用を共焦点顕微鏡およびNMRによる解析にて調べました。その結果、E1(Atg7)は二量体構造のN-terminal domain, C-terminal tailを介して脂質化Atg8, E2, E3と相互作用すること、E2(Atg3)はFlexible regionとHandle regionの2つの天然変性領域を介して脂質化Atg8, E1, E3と相互作用すること、E3(Atg12-Atg5-Atg16)はAtg16のcoiled-coil domainが脂質膜と相互作用することがそれぞれ分かりました。既知の相互作用も含めると、E1-E2-E3酵素群は主に天然変性領域を介して脂質化Atg8を含めて互いに弱く相互作用して膜複合体を形成していることが分かりました。
 最後に、これまで不明であったE1(Atg7)の隔離膜局在を蛍光顕微鏡にて調べました。その結果、E1(Atg7)がAtg8と共局在する様子が観察されたことから、脂質化Atg8とE1-E2-E3酵素群は隔離膜上で協力して成形過程に働いていることが示唆されました。
 本研究は、オートファゴソームを形作るのに必要な膜嵌入過程を初めて試験管内で再構成することができました。また、E1-E2-E3酵素群は単に脂質化Atg8を作るだけでなく、酵素以外の機能として脂質化Atg8と会合して膜複合体を形成することが分かりました。この膜複合体が実際にオートファゴソーム形成に寄与しているのかを様々な変異体を用いて調べましたが、Atg8の脂質化に欠損が出てしまうものが多く、膜複合体の形成を特異的に阻害する変異体を見つけることができていません。なかなかアイデアが浮かばない中、海外のグループとの競合もあり、意義を直接示すことができていませんが、発表に至りました。
 今回の論文も、東京工業大学の中戸川先生、小谷先生をはじめ、多くの方々にご助言とご協力をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。