PubMedID | 38167876 |
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タイトル | Experimental determination and mathematical modeling of standard shapes of forming autophagosomes. |
ジャーナル | Nature communications 2024 Jan;15(1):91. |
著者 | Sakai Y, Takahashi S, Koyama-Honda I, Saito C, Mizushima N |
- オートファゴソーム標準形態の実験的決定と数理モデル
- Posted by 京都大学医生物学研究所 境祐二
- 投稿日 2024/01/12
Nat. Commun.に発表した「オートファゴソーム標準形態の実験的決定と数理モデル」に関する私達の研究成果についてご報告させて頂きます。この研究は東大医の水島昇さん、髙橋暁さん、齊藤知恵子さん、本田郁子さんとの共同研究になります。
オートファジーにおけるオートファゴソーム形成は特徴的な膜変形が見られます。まず、扁平なディスク状の小胞が伸長し、それがカップ状にわん曲し、最後にそのカップの口が閉じて球状のオートファゴソームとなり細胞質成分を包み込みます。このダイナミックなオートファゴソーム形成は基本的なプロセスであるにも関わらず、これまでその特徴的な形態変化は体系的かつ定量的には記述されていません。そのため、オートファゴソーム形成時の特徴的な形態変化の根底にある物理学的基盤はほとんど解明されていませんでした。
私たちは、形成途中のオートファゴソームの形態を三次元電子顕微鏡法により網羅的に調査することで、その平均的な形態を決定し、求めた形態的特徴を物理モデルにより数理解析しました。まず、三次元電子顕微鏡法によって、100個以上の形成途中のオートファゴソームを網羅的に調査し、その形態の三次元構造を再構築しました。得られた形態を、形成過程の順に「最初期カップ」、「初期カップ」、「中期カップ」、「後期カップ」の4つのステージに分類し、それらを統計解析することで各ステージの標準的形態を決定しました。その結果、形成中のオートファゴソームの標準形態は、今まで思われていたような単純な部分円ではなく、縦に細長く伸びたカップ状であり、その縁は外側に反り返ったカテノイド曲面であるという特徴的形態をもつことが定量的に示されました。
次に、この形態的特徴を理解するために、膜の曲げ弾性エネルギーに基づく数理モデルを構築しました。その結果、得られた数理モデルは、電子顕微鏡法で観察されたオートファゴソーム形成時の形態を定量的に再現することに成功しました。理論的には、カップの縁がカテノイド曲面をとることで、縁付近の平均曲率を下げ、形態をより安定化させていると考えられます。この結果は、オートファゴソーム膜は非常に柔軟であり、オートファゴソーム形成中の膜の形態変化は、主に膜の物性に基づく曲げ弾性モデルに従って自発的に決定される安定した経路をたどることを示唆しています。また、その形態はサイズに依存しておらず、幅広いサイズスケールにおいて、数理モデルは実験的に観察された形態をよく再現しました。カップの縁の曲げエネルギーはスケールに依存するため、形成中のオートファゴソームの形態がスケールに依存しないという結果は、縁の曲げエネルギーがサイズによらず何らかのメカニズムで安定化されていることを示唆しています。
*****裏話*****
この研究は、水島さんの「隔離膜を電顕で見ると、よく口が反り返っているけど、なんでなんだろうね」と言った疑問からスタートしました。最初は、たまたま1枚の画像だけそうであって重要でないのではないかと思ったのですが、どうせなら統計解析してきちんとした形を求めてやろうと思い、研究を発展させました。反り返ることが膜の物理的にも自然であり、そのことが物理モデルの妥当性を支持する結果になったのは驚きでした。普段見慣れている何気ないことでも、その裏には理論的な根拠があるのかもしれません。そのことに気付かされた研究でした。また、この研究の途中で、Florian Wilflingのグループから酵母cryo-EMの隔離膜形態の論文が出ました。cryo-EMは断面の詳細な構造しかわからないのに対し、我々のアレイトモグラフィー法は3次元構造全体が含まれるため、この研究の解析に適していました。