PubMedID 38227290
タイトル The V-ATPase-ATG16L1 axis recruits LRRK2 to facilitate the lysosomal stress response.
ジャーナル The Journal of cell biology 2024 Mar;223(3):.
著者 Eguchi T, Sakurai M, Wang Y, Saito C, Yoshii G, Wileman T, Mizushima N, Kuwahara T, Iwatsubo T
  • ATG8 一重膜結合機構 (CASM) とLRRK2を介したリソソームストレス応答機構
  • Posted by 東京大学大学院医学系研究科 桑原 知樹
  • 投稿日 2024/01/17

JCB誌に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。

ATG5-ATG12-ATG16L1複合体などから成るATG8結合系は、LC3などの酵母Atg8オルソログ分子をオートファゴソーム二重膜に結合させることはよく知られてきました。一方、ATG8結合系のオートファジーとは独立した機能として、ストレスを受けたエンドリソソームの一重膜にATG8分子を結合させることが注目されています。この現象はしばらくnon-canonical autophagyと呼ばれてきましたが、細胞内分解を伴わないことや他の現象でも呼称されることから、近年では「CASM」(conjugation of ATG8 to endolysosomal single membranes)という呼称が定着しました。CASMはクロロキンなどのリソソームストレスを与える化合物の投与や、ザイモサンなどの貪食刺激によって引き起こされます。そのメカニズムとして、マクロオートファジーに必須の上流因子(ULK複合体、PI3K複合体など)を必要とせず、一方でオートファジーには不必要なATG16L1のWD40ドメインと、リソソームV-ATPaseとの相互作用が必須であり、この経路は「V-ATPase-ATG16L1 axis」などと呼ばれています。
しかし、CASMの細胞における役割については未だ多くが不明でした。

私たちはこのCASMの意義について、私たちが進めてきたパーキンソン病(PD)の研究からヒントを得ました。LRRK2 (leucine-rich repeat kinase 2) は、顕性遺伝性PDの主要な病因遺伝子であり、その産物は一部のRabタンパク質を細胞内でリン酸化するキナーゼです。これまでに私たちは、クロロキンなどのリソソームストレスに応答してLRRK2がリソソーム膜上に局在化して活性化することを発見し、報告してきました(Eguchi et al, PNAS 2018, Kuwahara et al, Neurobiol Dis 2020)。この時、肥大化したリソソーム膜上でLRRK2がLC3とよく共局在することを見出しました。LC3との共局在は古典的にはオートファゴソームへの局在を示唆するものでしたが、CLEMによる電顕観察でも、LRRK2とLC3はやはり一重膜のリソソーム上にあることが確かめられました。

そこで、LRRK2のリソソームへの局在化を制御するメカニズムとして、ATG8分子あるいはCASMが関わる可能性を考えました。クロロキンやザイモサン投与時におけるLRRK2のリソソーム/ファゴリソソームへの局在化は、ATG16L1やATG5のノックダウンにより抑制され、FIP200やATG13のノックダウンでは抑制されませんでした。従って、CASMの機構がLRRK2のリソソーム局在化を制御すると考えられました。さらに、ATG16L1のWD40ドメインを欠損する細胞(マクロオートファジーは保たれCASMが欠損)や、V-ATPaseとATG16L1との相互作用を阻害するバクテリアエフェクタータンパク質SopFの過剰発現細胞においてもLRRK2のリソソーム局在化が抑制されたことから、上述の「V-ATPase-ATG16L1 axis」がLRRK2局在化を制御することが分かりました。さらにこのCASMの機構は、リソソームに局在化したLRRK2の活性化に関わるとともに、それにより生じるリソソームの細胞外分泌や形態調節に関わることが分かりました。

以上より、CASMの新たな機能として、LRRK2を動員することでリソソームストレス応答をもたらすことが見出されました。この機構がリソソーム恒常性維持機構の1つとして働いている可能性があると考えています。また、PDにおいてはLRRK2の異常活性化が示唆されており、この機構の異常が疾患脳における不溶性タンパク質のリソソーム蓄積や細胞内外動態に影響することも想定されます。今後、CASMによるLRRK2制御の更なるメカニズムや、PD病態との関連を明らかにしたいと考えています。

本研究は東大・岩坪研究室で主に行われたものであり、現在水島研助教の江口智也君が当教室に在籍していた頃(もう6-7年前!)にCASMの関与を見出し、当教室の櫻井まりあさんが大幅に発展させた仕事になります。Co-firstのお二人それぞれの力なくしては結実しない研究でした。また本研究は水島研および英国Tom Wilemanラボとの共同研究としてすすめ、CLEM解析は齊藤知恵子先生に、リソース提供やディスカッションは水島先生に大変お世話になりました。さらに新学術マルチモードオートファジー公募班のほうでもご支援いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。