PubMedID 38200692
タイトル Expression of RNautophagy/DNautophagy-related genes is regulated under control of an innate immune receptor.
ジャーナル RNA biology 2024 Jan;21(1):1-9.
著者 Fujiwara Y, Oroku K, Zhou Y, Takahashi M, Katayama T, Wada K, Tsutsumi N, Sato T, Kabuta T
  • リソソームへの核酸の直接取り込み経路RNautophagy/DNautophagyに関わる遺伝子の発現が自然免疫関連因子の制御を受ける
  • Posted by 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所/大阪大学 連合小児発達学研究科 藤原悠紀
  • 投稿日 2024/02/12

今年の1月に掲載されました私たちの論文を紹介させていただきます。

これまで私たちは「リソソームが ATP 依存的に RNA や DNA を直接取り込み、分解する」という新たな細胞内の物質分解経路を見出し、RNautophagy および DNautophagy と名付けその分子メカニズムや生理的・病態生理的意義を研究してきました。このうち核酸のリソソームへの直接取り込みには2種類のリソソーム膜タンパク質、SIDT2 と LAMP2C が関わることを見出しています。

今回の論文ではこれら2種類のタンパク質をコードする遺伝子の発現が自然免疫応答に関わる上流因子の制御を受けることを報告しています。まず、細胞にウイルス感染をミミック する poly(I:C)という物質を導入すると SIDT2 と LAMP2C の発現がいずれも選択的に上昇してくることがわかりました。さらにノックダウンおよび過剰発現系の実験から、poly(I:C) を細胞内で認識しさまざまな自然免疫応答を惹起する因子 pattern-recognition receptors (PRRs)のひとつ、MDA5 がこれら2遺伝子産物の poly(I:C)依存的な発現上昇を惹起していることが明らかとなりました。加えて SIDT2 と LAMP2C のうちより中心的な役割を果たすと考えられる Sidt2 をノックアウトした細胞では、ウイルス感染時(日本脳炎ウイルス) のウイルス由来 RNA の増加が野生型細胞と比べて顕著になり、感染性のウイルス粒子の産生量も上昇することがわかりました。これらのことから、SIDT2 や LAMP2C を介したリソソームによる核酸分解がウイルス感染・増殖に対する細胞の防御機構の一部を担いうることが示唆されました。

本研究では MDA5 が SIDT2 と LAMP2C の発現を上流で制御することが明らかとなりまし たが、自然免疫応答にかかわる PRRs は他にも数多くあり、またこれら PRRs によって認識される分子パターンもさまざまです。今回報告した他にも多様な PRRs や分子パターンによって同様の誘導が起きる可能性が考えられます。中でも Toll-like receptors(TLRs)のうち核酸を認識するものは全てエンドソーム/リソソームがその認識の場となることが知られています。もしこれらの TLRs によっても同様の誘導が起きるのであるとすれば、SIDT2/LAMP2C による核酸の取り込みと TLRs による核酸の認識の間に正のフィードバックループが生じ得るのではないか、と言ったことも論文内でディスカッションしております。

実は SIDT2 に関しては別のグループからウイルス感染時にウイルス由来核酸をエンドソー ムから細胞質へと排出し、自然免疫応答の惹起を助けるという、我々とは真逆のモデルも提唱されていました。しかしこのモデルだけではなぜ SIDT2 と協調的に LAMP2C の発現も選択的上昇をするのか等、説明が難しいように思われます。これら2つのモデルが両立しうるものなのか、あるいはいずれかが主要な役割を果たすものなのか等は、更なる研究が必要な課題であると考えられます。

今回、筆頭著書・共責任者著者として論文を執筆させていただきました藤原は国立精神・神経医療研究センターから大阪大学に異動した後、大阪と東京の行き来もしつつ、なんとか論文掲載に漕ぎつくことができました。これからも何卒よろしくお願い致します。