PubMedID | 38530890 |
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タイトル | Autophagy maintains endosperm quality during seed storage to preserve germination ability in Arabidopsis. |
ジャーナル | Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2024 Apr;121(14):e2321612121. |
著者 | Shinozaki D, Takayama E, Kawakami N, Yoshimoto K |
- 保存中の種子でオートファジーがはたらくことで、長期間にわたり発芽能力が維持される
- Posted by 明治大学 研究・知財戦略機構 篠崎 大樹
- 投稿日 2024/03/28
明治大学の環境応答生物学研究室(主宰:吉本光希教授)で、植物オートファジーの研究をしております、博士研究員の篠崎大樹と申します。この度、種子の発芽能力維持におけるオートファジーの機能を解析した私たちの論文がProc. Natl. Acad. Sci. USA.に2024年3月26日付けで掲載されましたので、紹介させて頂きます。
植物の種子は保存期間中に外部環境からストレスを受け続けます。ストレスを受けた種子には酸化ダメージが蓄積し、発芽能力が徐々に低下していきます。種子が保存期間中に受けるストレスに対処するシステムは、種皮で胚を物理的に保護したり、種皮に抗酸化物質を蓄えたりするといった、受動的かつ静的なものが主であると考えられてきました。
我々は、5年以上の長期間保存したシロイヌナズナ種子の発芽率を調べ、オートファジー不能植物 (atg変異体) の種子は、野生型植物の種子よりも発芽能力が大幅に低下することを見出しました。シロイヌナズナの種子では、将来植物体に成長する胚が胚乳と呼ばれる生きた細胞の層に取り囲まれ、さらに死細胞である種皮で覆われています。興味深いことに、atg変異体の種子は長期の保存により発芽出来なくなったにもかかわらず、胚乳と種皮を除去することによりその胚は成長できることが明らかになりました。続いて、乾燥種子におけるオートファジー活性を調査したところ、保存期間中に胚乳細胞でオートファジーによる分解が行われていることが判明しました。また、長期保存したatg変異体種子の胚乳細胞は酸化タンパク質を多く含んでおり8割以上が死細胞であったのに対し、同じ期間保存した野生型種子の死細胞の割合は1割未満にとどまっていることが明らかになりました。
種子の発芽時には、胚乳の細胞壁が軟化することが知られています。長期保存したatg変異体種子では胚乳の細胞死により細胞壁軟化のプロセスを促進する遺伝子の発現が低下していると考え、遺伝子発現解析を実施したところ、予想通り、細胞壁成分の分解酵素や細胞壁リモデリング因子の遺伝子発現が著しく低下していることが判明しました。
以上の結果より、atg変異体種子では外部環境ストレスにより保存中に受けた損傷が回復できず胚乳のviabilityが低下し、その結果、胚乳細胞の細胞壁が軟化できずに物理的障壁となることで発芽が抑制されていると考えられました。つまり、オートファジーは保存中の種子の胚乳細胞において、酸化ダメージの蓄積を抑制し、正常な状態を保てるようにメンテナンスすることで、発芽能力の維持に貢献していると考えられました。
本件に関しましてプレスリリースを発行しておりますので、ご参照頂けますと幸いです。
https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2023/mkmht0000016kn9t.html