PubMedID 38818923
タイトル Atg44/Mdi1/mitofissin facilitates Dnm1-mediated mitochondrial fission.
ジャーナル Autophagy 2024 Jun;1-9.
著者 Furukawa K, Hayatsu M, Okuyama K, Fukuda T, Yamashita SI, Inoue K, Shibata S, Kanki T
  • マイトフィッシン/Atg44はDnm1依存的なミトコンドリア分裂を促進する
  • Posted by 九州大学大学院医学研究院 古川 健太郎
  • 投稿日 2024/06/07

最近Autophagy誌に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。

 余剰あるいは異常が生じたミトコンドリアは選択的オートファジー (マイトファジー) によって分解されます。私たちは昨年、北海道大学の野田展生先生らのグループと共同で、マイトファジーの過程でオートファゴソームに収まるようにミトコンドリアを分裂させる因子としてマイトフィッシン/Atg44を発表しました (Fukuda, Furukawa, Maruyama et al., Mol Cell, 2023)。通常の生育培地において、Atg44の欠損細胞は、既知のミトコンドリア分裂因子であるダイナミン様タンパク質Dnm1の欠損細胞と同様に肥大化したミトコンドリア形態を示します。このことから、両者はミトコンドリア分裂において協調して機能することが予想されましたが、Mol Cellの論文では報告していませんでした。

 今回の研究では、Atg44欠損細胞におけるDnm1の挙動を調べた結果、肥大化したミトコンドリアに多数のDnm1が集積している様子やミトコンドリアが狭窄している部分にDnm1が強く集積している様子が観察されました。さらに、ミトコンドリア分裂のタイムラプス解析を行ったところ、野生株ではDnm1が集積した部位で分裂が起こるのに対し、Atg44欠損細胞ではそのような分裂は全く観察されませんでした。これらの結果から、Dnm1依存的なミトコンドリア分裂にはAtg44が必須であることが分かりました。

 次に、Atg44欠損細胞において、Dnm1が集積しているミトコンドリアの狭窄部分に狙いを定めて光-電子相関顕微鏡解析を行ったところ、極限まで細くなっている様子が観察されました。さらなる解析から、このような狭窄部位ではミトコンドリアの膜は切れておらず、つながった状態を維持していることも分かりました。最後に、ミトコンドリアの分裂直前の狭窄部位にはAtg44が集まっている様子を観察することにも成功しました。以上の結果から、Atg44とDnm1の協調によるミトコンドリア分裂モデルを提唱しました。
 
 ダイナミン様タンパク質の発見から25年以上が経過し、これらがミトコンドリアを狭窄して分裂させるというモデルが長年信じられてきました。本研究では、ダイナミン様タンパク質だけでは分裂は完了せず、マイトフィッシンが決め手となることを見出したことは、これまでのモデルを大きく書き換える成果となります。

 現在、マイトフィッシンは酵母などの真菌類や一部の植物でしか見つかっていませんが、マイトファジーの研究結果から、哺乳類でもその存在が示唆されています。今後は哺乳類のマイトフィッシンを同定することが重要課題の一つとなります。ミトコンドリアの形態はその機能と密接にかかわっていることが知られており、様々なミトコンドリア関連疾患でミトコンドリア形態異常が認められています。具体的には、哺乳類におけるダイナミン様タンパク質の変異は、神経変性疾患や心疾患など様々な病態を引き起こすことが知られています。マイトフィッシンはミトコンドリア形態制御の重要因子であることから、その理解と応用により、ミトコンドリア形態異常を伴う様々な疾患の病態解明や治療法開発につなげたいと考えています。

 皆様へのご連絡が遅くなりましたが、神吉研究室は今年4月、新潟大学から九州大学に移転しました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。助教 (九州大学特定プロジェクト教員) および大学院生を募集しておりますので、ミトコンドリアやマイトファジーに興味のある方はお気軽にお問い合わせください。