PubMedID 39288101
タイトル Organelle landscape analysis using a multiparametric particle-based method.
ジャーナル PLoS biology 2024 Sep;22(9):e3002777.
著者 Kurikawa Y, Koyama-Honda I, Tamura N, Koike S, Mizushima N
  • 多パラメータ単粒子測定法によるオルガネラランドスケープ解析
  • Posted by 東京大学大学院医学系研究科 栗川義峻
  • 投稿日 2024/10/21

最近PLOS Biology誌に掲載された私たちの論文について紹介させていただきます。

オルガネラは独自の構造と分子組成を持ち、それぞれの機能に応じて分類されてきました。しかし、多くのオルガネラは不均一であり、成熟や分化の過程にあります。従来の方法では、パラメータ数や空間分解能が限られているため、オルガネラの不均一な状態を捉えることが困難でした。

そこで私たちは、オルガネラの多パラメータ単粒子測定法を開発しました。この方法では、細胞を破砕後、6〜8種類の異なるオルガネラマーカーで標識されたオルガネラ粒子の蛍光顕微鏡画像を取得し、その多次元データをシングルセル解析に使われるUMAP(uniform manifold approximation and projection)を用いて二次元平面上で表現します。この手法により、7つの主要なオルガネラを可視化することができました。

次に、マイナーな細胞内構造や一時的な相互作用の検出の応用例として、小胞体ーミトコンドリア接触部位をこれらのマップ上で検出することに成功しました。さらに、連続的に変化していくオルガネラの全体像の可視化の例として、リサイクリング経路と分解経路に向かうエンドソームの遷移状態も可視化することができました。これらの応用例は、本手法がオルガネラの多様性や動的な状態変化の解析に有効であることを実証示しています。

本研究は、オルガネラの状態を包括的に解析する新しい方法論を提案するものです。この手法により、オルガネラの不均一性や動的な変化を直感的に理解することが可能となります。今後、この方法を用いて、様々な生理的・病理的条件下でのオルガネラの状態変化を解析したいと考えています。この論文ではほぼオートファジーに触れませんでしたので、オートファジーに関連する膜構造の解析はこれから行いたいと思います。

一つの分子やオルガネラの研究を深めても、細胞や個体全体としての理解からは乖離する一方ではないかという問題意識から、階層を繋ぐような研究がしたいという動機で私はこのテーマに参画しました。複数のオルガネラを統合して解析することで、細胞やオルガネラの全体像を表現できるのではないかと考えました。ちょうどシングルセル解析が流行りだしたところでしたので、道具が揃っていつつあるところで始められたのが良かったです。
最後に、別の仕事がなかなか進まずにくすぶっていたところにこのテーマを提案して下さった水島さんと本田さん、またデータ解析できるまでに実験系を洗練させた田村さん、小池さん、五十嵐さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

ホンダの裏話:水島さんにお題をいただき1人で実験を開始したのが、医科歯科大(現・東京科学大)から東大に移ってすぐの2013年頃。手ごたえはすぐにあったのですが、1年もたたないうちにオートファゴソーム粒子をフローサイトメーターで計測した論文が出てしまったので、一旦ペンディング。2017年ERATOのグループリーダーになったときにリベンジ再開させていただきました。再スタート時の田村律人さんの献身的な協力、そしてこの上なく働き者の技術員五十嵐恵子さんの力と、そして強力な共同研究者栗川義峻さんを得て解析がかなりパワフルになり、ここまでたどり着くことができました。感謝申し上げます!