PubMedID 41634382
タイトル CaMKII nucleates an osmotic protein supercomplex to induce cellular bleb expansion.
ジャーナル The EMBO journal 2026 Feb;.
著者 Fujii Y, Sakai Y, Matsuzawa K, Ikenouchi J
  • CaMKIIは局所的な浸透圧を駆動するタンパク質複合体の核となり、形質膜ブレブの拡大を促進する
  • Posted by 九州大学大学院 システム生命科学科学府 藤井悠貴
  • 投稿日 2026/03/19

九州大学医学研究院生化学分野(池ノ内研)のシステム生命学府博士3年の藤井 悠貴です。最近The EMBO Journal誌に掲載された私たちの論文を紹介させていただきます。

形質膜ブレブは、アポトーシスや細胞運動時などに観察される細胞膜の突起構造です。従来、ブレブ形成は細胞皮質アクチンの収縮に伴う細胞内静水圧の上昇が駆動力となり形成されてしまうものとして、受動的なモデルで説明されてきました。しかし、このモデルでは実際の細胞で見られる同時多発的かつ独立したブレブ形成を説明することは困難でした。また、私たちのグループでは以前、拡大中のブレブ内部においてカルシウムイオン(Ca²⁺)濃度が一過的に上昇し、それがブレブ拡大を促進することを見出していました(Aoki et al., Nat. Commun., 2021)。しかし、局所的な細胞質の組成変化がどのように膜変形を促進するのかは未解明でした。

本研究では、Ca²⁺の下流でブレブ拡大に寄与する因子としてCaMKIIを同定しました。培養細胞を用いた解析の結果、CaMKIIは拡大期のブレブ内部に限局して集積すること、さらにCaMKII欠損細胞ではブレブが小型化することが分かりました。興味深いことに、このブレブ拡大促進にはCaMKIIのキナーゼ活性は必要ありませんでした。さらなる解析から、CaMKIIがCa²⁺/カルモジュリン依存的な構造変化を起こし、MenaやERK1といったタンパク質と多価相互作用することで、ブレブ内部で巨大な分子ネットワーク(集合体)を形成することが明らかになりました。

次に、このCaMKII集合体がなぜブレブ内部に限局するのかを、細胞質の物理的性質(アクチン細胞骨格を基礎とする多孔質弾性体である固相とその間隙を満たす液相から成る二相性の物質であること)に着目して検証しました。超解像顕微鏡観察などにより、ブレブ内部と細胞体とでアクチン構造が異なること、さらに細胞質固相の主要素であるリボソームを減少させるとCaMKIIの集積が消失することを見出しました。また、ブレブ内に集積したタンパク質群の濃度差から推定される浸透圧は、野生型とCaMKII欠損細胞間のブレブサイズの差を生み出すのに十分な値であることも確認しました。

以上の実験結果から、私たちはブレブ拡大において次のようなメカニズムが働いていると考察しました。まず、多孔質弾性体である細胞質において、ブレブ内外の構造的な違いにより、巨大化したCaMKII集合体は細胞体へ拡散しきれずにブレブ内に留まります。そして、この局所的に集積したタンパク質群がもたらすコロイド浸透圧が、細胞体からの液相流入を促し、ブレブを能動的に拡大させる推進力になっていると考えられます。私たちは、このCaMKIIを基盤とした新しい浸透圧駆動型のブレブ拡大機構を「CODE (CaMKII-based Osmotically-driven Deformation)」と命名し、提唱しました。

従来の「皮質張力による内圧制御」モデルに対し、本研究は「細胞質の物性差に基づく分子拡散制御」と「局所的な浸透圧発生」が協調して膜変形を促進するという新たな視点をもたらすものです。ブレブ形成はがん細胞のアメーバ様遊走などに深く関与しており、またCaMKIIは神経シナプス可塑性の中心分子でもあります。本研究の概念が、がん転移のメカニズム解明や、スパイン増大など広範な細胞形態変化の理解へと繋がることが期待されます。

最後に、本研究を遂行するにあたり、浸透圧駆動型ブレブ拡大の数理モデル作成において、横浜市立大学の境祐二先生にご協力いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。