PubMedID 31606272
タイトル AUTACs: Cargo-Specific Degraders Using Selective Autophagy.
ジャーナル Mol Cell, 2019 Oct 09; [Epub ahead of print]
著者 Takahashi D, Moriyama J, Nakamura T, Miki E, Takahashi E, Sato A, Akaike T, Itto-Nakama K, Arimoto H
  • 狙ったタンパク質やミトコンドリアのオートファジー分解手法の開発
  • Posted by 東北大学大学院生命科学研究科 高橋大輝
  • 投稿日 2019/10/21

 今月Molecular Cellに掲載された私どもの論文を紹介させていただきます。
 いま創薬研究の現場では,細胞内分解系を活用して疾患原因を選択分解する化合物「デグレーダー」が熱い注目を集めています。デグレーダーには,分解相手に合わせて自在にデザインできることが期待されますが,このようなオートファジー誘導剤はこれまでありませんでした。今回の論文では,Autophagy-targeting chimera (AUTAC)と名付けた化合物を設計し,目的とするタンパク質や機能不全ミトコンドリアの選択的オートファジー分解を実現しました。
 以下に,具体的な研究成果を簡単にまとめます。システイン残基の翻訳後修飾であるタンパク質S-グアニル化は,A群レンサ球菌のK63型ユビキチン化とオートファジー排除を促進する効果をもちます(伊藤ら,Mol. Cell 2013, 52, 794)。私たちは,S-グアニル化が,選択的オートファジー分解すべしという「目印」であると提唱しましたが,幅広いコンセンサスを得たとは言えませんでした。そこで,今回は意識的に細菌感染系を離れて研究し,S-グアニル化が単独でオートファジーを起こすタグであることを実証することにしました。
 まず,標的タンパク質としてMetAP2,FKBP12を選び,これらに結合する化合物(標的化リガンド)とS-グアニル化構造を連結したダンベル型の化合物AUTAC1, AUTAC2を合成しました。AUTACは,哺乳類培養細胞において,1−10 µMの濃度で標的タンパク質を減少させることが確認できました。なお,S-グアニル化によって起きる分解はAtg5 KO MEF/p62 KO MEF細胞では観察されません。
 オートファジー分解系の特性を活かすため,次に機能不全ミトコンドリアの分解を試みました。ミトコンドリアは疾患や老化に伴って機能低下し,有害な活性酸素を産生するため,創薬の標的として非常に価値があると思われます。標的化リガンドには,ミトコンドリア外膜上のTSPOに結合する化合物を利用しました(AUTAC4)。AUTAC4を使ってHeLa細胞のミトコンドリア表面にS-グアニル構造を導入したところ,予想通りK63ユビキチン化が進行しました。しかし,ミトコンドリア分解には,追加の因子としてミトコンドリアサイズが重要でした。この論文では,OPA1 KD, CCCP処理という2つの条件を用いて,それぞれ断片化を誘導しましたが,いずれの条件でもミトコンドリアの分解が進行しました。AUTAC4は,細胞毒性を示すはずのCCCP処理条件下でもアポトーシスを抑制し,これはオートファジーがCytCの細胞質漏出を抑制することに基づいています。また,今回のミトコンドリア分解にParkin, PINK1がともに不要であることから,メカニズムの点で興味深いと思います。
 最後に,ダウン症患者由来の繊維芽細胞(Detroit 532)を用いてAUTAC4の効果を検証しました。ダウン症では機能低下に伴い,ミトコンドリア断片化が起きるという報告があったからです(2017年)。10 µM AUTAC4を3日間投与したところ,ミトコンドリア機能(膜電位,ATP産生)が顕著に改善しました。また,AUTAC4処理前に存在していた断片化ミトコンドリアは除去され,代わりに新生したネットワーク状の健康なミトコンドリア形態に復帰することが確認できました。
以上,概略をまとめましたが,創薬手法としては,ユビキチンプロテアソーム系を用いるデグレーダー(PROTACs)が15年ほど先行しており,今年から抗がん剤の領域で臨床試験が始まりました。PROTACや今回のAUTACは,実験室で行なうゲノム編集やRNAiの効果(タンパク質ノックダウン)を有機化合物で実現できることになります。基礎医学研究の成果が,これまでよりスムーズに創薬につながるのではと期待しています。今後も,選択的オートファジー研究からS-グアニル化以外の新たなタグが見つかるでしょうから,基質選択性を持つオートファジー誘導剤が次々と作成されると予想します。
 今回の研究で,私個人がもっとも気に入っているのは,無毒の化合物でミトファジーを誘導できた点です。似たような機能の化合物がないので,ユニークではないでしょうか。ダウン症に限らずミトコンドリアの機能低下を伴う疾患や老化に応用が期待できるとして,論文発表後の数日でも複数のアイデアを頂戴していますので,この先も継続して検討して行きます。皆さまのご指導をよろしくお願いいたします。