PubMedID 31995729
タイトル Liquidity Is a Critical Determinant for Selective Autophagy of Protein Condensates.
ジャーナル Mol Cell, 2020 Jan 20; [Epub ahead of print]
著者 Yamasaki A, Alam JM, Noshiro D, Hirata E, Fujioka Y, Suzuki K, Ohsumi Y, Noda NN
  • 蛋白質液滴をターゲットとする選択的オートファジーはカーゴの”液体度”が重要である
  • Posted by 東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 山崎章徳
  • 投稿日 2020/01/30

最近発表致しました私たちの論文についてご報告させていただきます。この研究は微生物化学研究会 野田展生部長のもと、東工大 大隅良典先生、東大 鈴木邦律先生と共同で行いました。

生命科学における液液相分離とは、特定の蛋白質や核酸が濃度の高い相と低い相に分離する現象であり、濃度の高い相は膜のないオルガネラ様構造体として機能します。このような構造体は流動性が高く球状になるなど液体のような性質を持つことから液滴とも呼ばれます。神経変性疾患の原因産物の多くは、定常状態時には液液相分離を起こして液滴として生理的機能を担うものの、変異などで凝集体化し流動性を失うと病態を引き起こすことが知られています。一方、選択的オートファジーの破綻時にも、蛋白質凝集体が分解されずに蓄積し神経変性疾患が引き起こされることから、選択的オートファジーは蛋白質”凝集体”をカーゴとして分解することで疾患を防いでいると考えられてきました。

今回私たちは、出芽酵母でCvt経路と呼ばれる選択的オートファジーのカーゴであるApe1 complexが、実は液液相分離を起こした液滴であること、さらにCvt経路不能となるApe1 P22L変異体は凝集体を形成していることを見出しました。Ape1の選択的オートファジー受容体であるAtg19は、全長ではApe1液滴の表面に局在するのに対し、Atg19のN末端領域を削ると (Atg19 dN) Ape1液滴の内部に浸潤する様子が観察されました。Ape1 P22L変異体、Atg19 dN変異体のそれぞれが発現した細胞では、いずれもCvt経路ではApe1の液胞輸送が阻害されるのに対し、Rapamycin処理下ではバルクオートファジーで液胞輸送されます。この分子機構を詳しく調べるために、in vitro再構成実験を行いました。脂質化したAtg8を含むGUVを隔離膜のモデルとして、それにApe1液滴とAtg19を加えたところ、Atg19に覆われたApe1液滴がGUV膜とテザリングした後、GUV内部に陥入して取り込まれていく様子が観察されました。一方でApe1液滴内部に浸潤するAtg19 dN変異体やApe1 P22L凝集体を用いた場合、GUVとテザリングは可能なものの膜変形は引き起こされず、Ape1はGUVに取り込まれませんでした。Cvt経路では選択的オートファゴソーム(Cvt小胞と呼ばれる)の形成にカーゴであるApe1を必要とすることが知られています。今回の結果は、カーゴが液体度を持ち表面が十分に受容体に覆われていることが選択的オートファゴソームへの取り込みの条件となっていること、一方、飢餓時のバルクオートファゴソームのようにその形成にカーゴを必要としない場合には、カーゴが隔離膜にテザリングさえされればオートファゴソームに選択的に取り込まれることを示唆しています。

これまでは選択的オートファジーが凝集体を分解すると考えられてきましたが、少なくともbasalの状態で起こるオートファジーにおいては異なっており、選択的オートファジーは凝集体よりもむしろ凝集体化する以前の液滴を分解することで疾患発症を防いでいるのではないかというのが私達の研究から得られた結論です。一方で、Hong Zhangのグループ (Zhang et al., Cell 2018) や、小松先生のグループ (Sánchez-Martín et al., EMBO Rep 2020) から報告されている通り、カーゴの液体度が高すぎると逆に選択的オートファジーのカーゴとはなりにくいという報告もあります。Ape1やp62のような選択的オートファジーカーゴが形成する液滴は、一般の液滴と比べて流動性が低めであることから、選択的オートファジーカーゴとして”適切な液体度”が存在するのではないかと考えています。