PubMedID 32211892
タイトル Heparan sulfate is a clearance receptor for aberrant extracellular proteins.
ジャーナル J Cell Biol, 2020 Mar 02;219(3);
著者 Itakura E, Chiba M, Murata T, Matsuura A
  • 細胞外の変性タンパク質を分解する
  • Posted by 千葉大学大学院理学研究院 板倉英祐
  • 投稿日 2020/03/28

最近、世に送ることができた私たちの論文を紹介させていただきます。

オートファジーやユビキチン-プロテアソームなど細胞内タンパク質分解システムが生体に必須であることは今では自明であります。新しい「こと」に取り組もうと考え、全く異なるタンパク質分解系を模索しました。着目したのが細胞外です。

哺乳類生体内には血液のように細胞外に多くのタンパク質を含み、情報伝達や物質輸送など様々な用途に利用します。実際にヒト遺伝子の約11%は分泌タンパク質です。しかし、よく考えてみると、細胞外のタンパク質が品質管理されているのか実はよくわかっていないことに気づきました。漠然とないがしろにされているような分野です。最近のオートファジーの研究から予想以上に多くのものが選択的に分解されていることを考え合わせると、細胞外タンパク質も品質管理されているんじゃないか、つまり細胞外不良タンパク質を選択的に分解するシステムがあるのではと思いを抱きました。

そこで細胞外シャペロンと呼ばれているClusterinに着目し、蛍光Clusterin取り込みアッセイ法を確立、CRISPR網羅的遺伝子スクリーニングと組み合わせた実験を断行しました。仮説とアッセイ系がうまく噛み合ったおかげで、細胞外の変性タンパク質が細胞表面受容体を介して選択的に細胞内に取り込まれ分解されるシステムを発見できました。
細胞外でタンパク質が変性するとClusterinに捉えられ、その複合体は細胞膜上のヘパラン硫酸を持つタンパク質(プロテオグリカン)を受容体として結合することを同定しました。受容体に結合したClusterin-変性タンパク質複合体はエンドサイトーシスによって取り込まれ、リソソーム内で分解されます。Clusterin単独ではなく、変性タンパク質と結合したClusterin複合体が選択的にエンドサイトーシス分解されることで、細胞外変性タンパク質の除去に機能していると考えられます。ほとんどの組織由来の細胞株で同様の活性があることや、アルツハイマー病の原因タンパク質アミロイドβや細胞質由来の様々なタンパク質と結合したClusterin複合体が取り込み分解されることから、この経路は血液中などの細胞外における一般的な分解システムと考え、Chaperone and Receptor mediated Extracellular protein Degradation (CRED)と名付けました。同月号のJCBのSPOT LIGHT(著:小松先生)にて紹介もしていただけました。

今後、基質選択性や取込み選択性などの詳しい分子機構や、生理的役割を解き明かし、血液をきれいにするシステムの解明を広げていけたらと思い定めるところです。