PubMedID 32989250
タイトル LC3 lipidation is essential for TFEB activation during the lysosomal damage response to kidney injury.
ジャーナル Nat Cell Biol, 2020 Sep 28; [Epub ahead of print]
著者 Nakamura S, Shigeyama S, Minami S, Shima T, Akayama S, Matsuda T, Esposito A, Napolitano G, Kuma A, Namba-Hamano T, Nakamura J, Yamamoto K, Sasai M, Tokumura A, Miyamoto M, Oe Y, Fujita T, Terawaki S, Takahashi A, Hamasaki M, Yamamoto M, Okada Y, Komatsu M, Nagai T, Takabatake Y, Xu H, Isaka Y, Ballabio A, Yoshimori T
  • 脂質化LC3はリソソーム損傷時のTFEB活性化に必要である
  • Posted by 大阪大学 大学院生命機能研究科 /高等共創研究院 中村 修平
  • 投稿日 2020/10/02

最近発表した我々の論文について紹介させていただきます。

リソソームはエンドサイトーシスによって取り込まれたシリカ、シュウ酸カルシウム結晶、尿酸結晶、毒素、アミロイドタンパク質などによって損傷を受けることがわかっています。リソソームが損傷を受けると酸性の内容物が細胞質に漏れ出てしまい、酸化ストレス、炎症、細胞死等を引き起こす可能性があるため、損傷リソソームは細胞にとって有害な存在となります。以前我々の研究室では損傷したリソソームを選択的に隔離するオートファジー(リソファジー)を新たに発見し、これがリソソームと細胞の恒常性維持に必須の役割を果たしていることを見出していました(Maejima et al., EMBO J, 2013)。今回我々はオートファジー・リソソーム生合成のマスター転写因子として知られるTFEBがリソソーム損傷時に活性化し、この働きが損傷リソソーム修復に必須なことを新たに見出しました。興味深いことに、様々なATG因子のKO細胞を用いた解析から、TFEBの活性化には脂質化LC3の働きが必要なことが明らかとなりました。ご存知のようにオートファジーが誘導されるとLC3はATG結合系と呼ばれる一連の因子群によって脂質化され、オートファゴソームに局在することが知られていますが、リソソーム損傷時には加えてリソソームにも局在することを見出しました。リソソームに局在した脂質化LC3はオートファジーでの役割とは独立してリソソーム上のカルシウムチャネルTRPML1と相互作用し、この活性を上げることでリソソームからの局所的なカルシウム流出をうながし、栄養センサーmTORの抑制を介してTFEBを活性化していました。またマウスやヒト検体を用いた解析から、このメカニズムがリソソーム損傷を伴う結晶性腎症の病態悪化を防いでいることを見出しました。このプロジェクトは私が2016年4月に吉森研に着任後最初に着手したもので、一部のATG因子がTFEB活性化に必須なことは早い段階で見出していましたが、なかなかメカニズム解明には至りませんでした。その後当研究室大学院生の重山紗紀さん、大阪大学 大学院医学研究科 腎臓内科学の南聡先生と一緒になって研究を進めた結果まとめることができました。TIGEMのProf. Ballabio、大阪大学 産業科学研究所の永井先生を始め多くの共同研究者の方々に感謝申し上げます。今後はリソソーム損傷時にどのようにLC3がリソソームにリクルートされるのか、LC3とTRPML1との相互作用がなぜ結果的にTFEB活性化につながるのかなどまだまだ未解明な点を明らかにしていきたいと思っています。