PubMedID 33106659
タイトル Structure, lipid scrambling activity and role in autophagosome formation of ATG9A.
ジャーナル Nat Struct Mol Biol, 2020 Oct 26; [Epub ahead of print]
著者 Maeda S, Yamamoto H, Kinch LN, Garza CM, Takahashi S, Otomo C, Grishin NV, Forli S, Mizushima N, Otomo T
  • ATG9Aの構造と機能
  • Posted by スクリプス研究所 大友崇紀
  • 投稿日 2020/10/30

みなさま、フォーラムへの報告が遅れまして申し訳ありません。この論文ではヒトATG9Aの構造と機能について報告しています。以前の私どものATG2Aの研究でも活躍した前田晋太郎研究員が彼の専門である膜タンパク質の電顕解析に本領を発揮し構造解析に成功、さらに生化学を行いました。水島先生グループ、UT SouthwesternのGrishinグループ、ScrippsのForliグループから機能とメカニズムを確立するための貴重なデータを提供していただきまして論文を完成することができました。

クライオ電顕を用いての構造解析の結果、ATG9Aは内部に大きな空間を持つくさび形のプロトマーが三つ集まって三量体を構成していることがわかりました。プロトマー間はドメインスワップしており、そのおかげで三量体は安定と考えられます。三量体の中心には膜を貫通する孔(中心孔)があり、プロトマー内部の空間は中心孔とタンパク質外側にある膜、そして細胞質と繋がっています。穴の形と向きから、横穴と称します。中心孔、横穴どちらも全体としては親水的です。

タンパク質情報科学(Grishin)、明示的分子動力学シミュレーション(Forli)、細胞での変異体解析(水島先生、山本林先生、高橋暁先生)、生化学実験を通して、ATG9Aは脂質分子をフリップフロップ(スクランブル)することができるタンパク質分子であり、中心孔が活性部位であろうということが示唆されました。中心孔は横向きに開くことで膜を構成している脂質分子がアクセスすることができそうです。中心孔は完全に溶媒で満たされており十分親水的なため、脂質分子の頭のみが中心孔に入り、疎水的な足は外側の膜中に残ります。脂質分子の頭が中心孔内をブラウン運動で拡散移動することで、フリップフロップが達成されるだろうという分子メカニズムモデルを提唱しました。

膨張したときの中心孔の径はとても大きく、複数の脂質分子の頭が容易に入れます。しかし、そのように溶媒で満たされた膜貫通孔は不安定なように思えます。それを解決する為に、溶媒で満たされた横穴三つを中心孔の横に繋げて、一次元的な膜貫通孔を二次元的に広げることで系全体の構造の安定化を達成させるのではないかと考えました。結果、ファネル形状(もっと適切な言い方があるよう感じますが、思いつきませんでした)の溶媒で満たされた3次元空間が膜中に形成されることになり、それが脂質分子が傾くことを促進させるのではないかと思います。このモデルですと、ATG9Aがなぜ三量体なのか、またなぜあのような空洞をもつ構造をしているのかという疑問を説明できると思います。

オートファジーのタンパク質の構造はその基本構成フォールドが他のタンパク質ですでにみられるものだったりしています(Atg2がbacterial Lpt complexに似ているとか、Atg101/13がHorma domainだったり。どれも野田先生グループの仕事ですね!)。その点、ATG9Aの構造はとてもユニークなので、どのようにあのような構造が生まれたのかと非常に疑問でした。スクランブレースといえば、TMEM16ファミリーがよく知られていますが、ATG9AとTMEM16はだいぶ違うようです。ATG9Aと関連する何か別つの分子はないかと思案していたころ、かなり以前にATG9のフラグメント配列をBLASTサーチにかけてbacterial flippaseの一部が引っかかったのを思い出しました(非常に短い領域です)。そのことをGrishin labに相談してみたところ、ATG9Aはアミノ酸配列の前半と後半部は繰り返しており、そのどちらもABC Type I exporterの一部と似ているということを見出しました。ABCからATG9Aへ進化シナリオ等もいろいろ提案していただきましたが、中間体となるタンパク質がどこかで見つからないと確証できないということで、その内容は論文にはいれませんでした。したがって、ATG9AはABCのホモログであるといっている訳ではありません。

活性低下が起こる変異体の同定を山本林先生に行っていただきました。その結果、中心孔に変異があるとオートファジー活性が低下して、LC3 punctaが小さくなるということが見つかりました。高橋暁先生に行っていただきました3D CLEMで、その小さいLC3 punctaが非常に小さいオートファゴソームもしくは同じく小さい隔離膜であることが明らかになりました。したがって、ATG9Aの活性(スクランブレース活性)は脂質分子の輸送に必要であるということが示唆され、オートファゴソーム形成メカニズムとして、ATG9A vesicleに運ばれて来た脂質分子はATG9Aのスクランブル活性により脂質二重層の上層から内層へと移動できることで、脂質二重層膜全体が大きくなりうるという隔離膜伸長モデルを提唱しました。的場先生らの結論と同じです。

以上、タンパク質の分子メカニズムとオートファゴソームの形成メカニズムについて一定の結論を与えることができたと考えています。今後はまだ説明できていないことやこれらのメカニズムをより検証していくことが課題だとおもいます。例えば、分子メカニズムでは的場先生らは横穴も活性部位として提唱されていますが、その可能性もあると思います。まだ見えていないコンフォメーションもあるかもしれません。活性制御やATG2との関連性等も今後明らかにしたいと思います。ミニ隔離膜が出来るという発見は、カップ形状の発生メカニズムや閉口のメカニズムの解明に知見をもたらすかもしれません。

蛇足1:ミニ隔離膜はカップ形状をしていてその像は衝撃的です。構造に興味ない方も一見の価値あります。Fig4には一つづつしか載せてないですが、SIにたくさんありますので、ぜひご覧ください。
蛇足2:論文タイトルではATG9Aが最後になってしまい、おそらくそのせいだと思いますが、(Atg9から始まるタイトルをもつ)的場先生らの論文にくらべて、アクセス数が半分以下です。今後どれだけ差が出るのか興味深いところです。

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  • 微生物化学研究会微生物化学研究所  野田 展生  2020/10/30

大友さん、(長く待った)論文をとても楽しく読ませていただきました。私たちの論文では構造に関する議論は少なく、またスクランブルする分子メカニズムも次の課題としてほとんど考察していないのですが、ファネルモデルはとても魅力的ですね。何であんな変な横穴を持つようになったのだろうと不思議でしたが、縦穴の開閉のために存在すると考えるとスッキリします。実際に脂質が移動する過程を観察するのが次の課題ですね。

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  • スクリプス研究所  大友崇紀  2020/10/30

野田さん、コメントありがとうございます。野田さんらの論文ほどタンパク質の活性データがないため、せめて構造の意味づけだけはしたいと思いなんとかたどり着いたというモデルです。三次元的な絵を描かないないとわかりにくいだろうと思いつつ、うまく描けないままタイムアップになってしまいました。モデルを検証する実験をしないといけないですね。しかし予防線を張るようで申し訳ありませんが、横穴も活性を示す可能性は大いに残っていると思います。ATG9が隔離膜端のような曲率の高い場所に置かれた時にどのようなコンフォーメションを取るかも知りたいところです。