PubMedID 33296658
タイトル Autophagy Is Required for Maturation of Surfactant-Containing Lamellar Bodies in the Lung and Swim Bladder.
ジャーナル Cell Rep, 2020 Dec 08;33(10);108477,
著者 Morishita H, Kanda Y, Kaizuka T, Chino H, Nakao K, Miki Y, Taketomi Y, Guan JL, Murakami M, Aiba A, Mizushima N
  • オートファジーは肺や浮袋のラメラ体成熟および気腔拡張に必要である
  • Posted by 東大・医 森下英晃
  • 投稿日 2020/12/10

Cell Reports誌に掲載されました私たちの最近の成果を紹介させていただきます。

  哺乳類の肺と魚類の浮袋は進化的および解剖学的に相同な空気を含む臓器です。これらの臓器を空気で膨らませるためには、内腔を覆っている水の表面張力を弱める必要があります。この役割を担うのがサーファクタント(表面活性物質)という脂質に富む物質で、空気との境界の水面に広がることで水の表面張力を弱めます。このサーファクタントは肺胞や浮袋の上皮細胞内の「ラメラ体」と呼ばれるリソソーム関連オルガネラ(後期エンドソーム由来で分解活性を有する)で生成・貯蓄された後に分泌されますが、ラメラ体の形成機構についてはこれまで十分に解明されていませんでした。

  今回私たちは、全発生過程を体外で観察可能なゼブラフィッシュを用いて、オートファジーの新規生理機能を探索しました。その結果、主要なオートファジー関連因子の欠損体はいずれも受精後2週間以内に致死となること、上流ATG因子(fip200, atg13, atg101, atg14, atg9a&9b, atg2a&2b, vmp1)の欠損体の多くは共通の表現型として浮袋の拡張不全を認めることを見出しました。野生型の浮袋上皮細胞内ではLC3陽性オートファゴソームとラメラ体が高頻度に融合しており、オートファジー欠損体ではラメラ体が正常に形成されていませんでした。同様にマウスの?型肺胞上皮細胞内でもオートファゴソームとラメラ体の融合が高頻度に起きており、Atg101欠損マウスや?型肺胞上皮細胞特異的Fip200欠損マウスではラメラ体が未成熟となり(小型で内部の脂質が少ない)、後者は呼吸不全のために出生後に致死となりました。一方、サーファクタントの主成分である脂質の小胞体での合成はAtg101欠損肺でも正常に認められました。以上の結果から、オートファジーは脂質成分(膜系オルガネラやオートファゴソーム内膜由来)をラメラ体に供給したり、オートファゴソーム外膜をラメラ体膜に供給したりすることで、ラメラ体の成熟に貢献しているという可能性が考えられました。ラメラ体は後期エンドソーム由来であることを考えますと、今回私たちが見出した現象は、オートファゴソームと後期エンドソームの融合によるamphisomeの形成と関連している可能性があります。

  本論文は当初Dev Cell誌に投稿しましたが、誘導的KO成獣マウスを用いて肺発生への影響を除外するよう強く要求されたため、Cell Rep誌にトランスファーすることになりました。しかし、Fip200欠損肺では肺形成や?型肺胞上皮細胞の分化は正常なため、肺発生への影響はほとんどないと考えられます。本研究は着想から出版まで5年間を要しましたが、その間、共同研究者の方々、そして水島さんおよびラボの皆様、特に大学院生の神田さん、特任助教の江口さん、学術支援職員の佐藤さん(1万匹以上の魚の維持)、現神戸大の貝塚さん、特任研究員の千野さんには大変お世話になりました。さらに論文化にあたりましては小松雅明先生に寛大なご配慮をいただきました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。