PubMedID 33317697
タイトル Association and dissociation between the mitochondrial Far complex and Atg32 regulate mitophagy.
ジャーナル Elife, 2020 Dec 15;
著者 Innokentev A, Furukawa K, Fukuda T, Saigusa T, Inoue K, Yamashita SI, Kanki T
  • ミトコンドリア型Far複合体とAtg32の結合と解離によるマイトファジー制御
  • Posted by 新潟大学大学院医歯学総合研究科 古川健太郎
  • 投稿日 2020/12/16

eLife誌に最近掲載されました論文を紹介させていただきます。

ミトコンドリアを選択的に分解するミトコンドリアオートファジー (以下、マイトファジー) は、ミトコンドリアの恒常性維持に貢献していると考えられています。当研究室では、酵母をマイトファジーのモデル生物として用いて、マイトファジーの分子機構を研究しています。これまでに、マイトファジーレセプターであるAtg32がカゼインキナーゼ2 (以下、CK2) によってリン酸化されることがマイトファジーの引き金となること (Kankiら、EMBO Rep、2013)、逆に、Atg32がPP2A様プロテインホスファターゼPpg1によって脱リン酸化されることがマイトファジーの抑制につながること (Furukawaら、Cell Rep、2018) を見出しています。Ppg1は、Far3-7-8-9-10-11の6つのタンパク質から構成されるFar複合体と協調して機能することも見出していましたが、実際にAtg32のリン酸化と脱リン酸化がどのように制御されているのかは不明のままでした。本研究では、Far複合体に着目して研究を進めました。

過去の報告では、Far複合体は小胞体に局在すると考えられていたため、ミトコンドリアに局在するAtg32の脱リン酸化がFar複合体によってどのように制御されるのかという疑問が残っていました。Far複合体因子にGFPを融合させ、蛍光顕微鏡を用いた詳細な局在解析を行ったところ、Far複合体は小胞体だけではなくミトコンドリアにも局在していること、その局在にFar9とFar10のテイルアンカードメインが重要であることが分かりました。次に、小胞体あるいはミトコンドリアの一方にのみ局在するようにFar9のテイルアンカードメインを遺伝子改変し、局在パターンと機能の違いを調べました。その結果、ミトコンドリア型Far複合体はマイトファジーの制御に関与し、小胞体型Far複合体はTORC2栄養シグナル伝達経路の制御に関与するという局在による機能の使い分けをしていることが明らかとなりました。

次に、Far複合体構成因子をすべて欠損させた酵母に、各Far因子を一つずつ戻し、免疫沈降法を用いてPpg1と優先的に結合するFar因子を調べました。その結果、Ppg1とFar11は他のFar因子非依存的にサブ複合体を形成し、Far8を中心とするFar複合体本体 (Far3-7-8-9-10) へと結合することが分かりました。また、サブ複合体と本体の結合にはPpg1の活性自体が必須であり、Ppg1はAtg32の脱リン酸化だけではなく、Far複合体全体の会合にも重要な役割を果たすことが明らかとなりました。

本研究の開始当初は、マイトファジーの誘導条件下ではPpg1とFar複合体の結合状態が崩れることによってAtg32の脱リン酸化ができなくなり、その結果としてCK2によるAtg32のリン酸化が促進されると予想しました。しかしながら、予想に反し、Ppg1とFar複合体の結合状態、Far因子間の結合状態、Far複合体の局在などはマイトファジー誘導時にも変化しなかったことから、他の要因が考えられました。さらなる解析を進めた結果、Far複合体の中でもFar8がAtg32と直接結合すること、マイトファジーの誘導条件下ではFar8とAtg32の解離が起こることを見出しました。さらに、Far8とAtg32を強制的に繋いだ変異体では、Atg32のリン酸化やマイトファジーが強く抑制されたことから、Far複合体がAtg32から解離することがマイトファジー制御の鍵であるという結論に至りました。

マイトファジーの誘導条件下において、Far複合体とAtg32の結合は未解明のシグナルによって阻害されると推測されます。今後は、このシグナルの正体と詳細な分子機構を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指します。