PubMedID 33400912
タイトル Homeostatic Regulation of ROS-Triggered Hippo-Yki Pathway via Autophagic Clearance of Ref(2)P/p62 in the Drosophila Intestine.
ジャーナル Dev Cell, 2021 Jan 11;56(1);81-94.e10,
著者 Nagai H, Tatara H, Tanaka-Furuhashi K, Kurata S, Yano T
  • オートファジーによるp62 除去がYki活性化を制御して腸管恒常性を維持する
  • Posted by 東北大学大学院薬学研究科 矢野環
  • 投稿日 2021/01/14

最近Developmental Cellに掲載された私どもの論文を紹介させていただきます。腸管上皮組織ではオートファジー活性の低下と腸管炎症の関連が知られており、オートファジー不全が炎症性腸疾患であるクローン病の病態悪化の要因となりますが、その分子機構は不明でした。特に、オートファジー不全による腸管炎症は腸内細菌の影響を受けますが、それが特定の菌種によるのか、さらにその応答に関与する宿主因子は全く不明でした。
私たちはショウジョウバエ腸管をモデル系として用い、その分子機構と、腸内細菌との関係を検討しました。その結果、分化した上皮細胞において、腸管管腔内に上皮細胞が放出する活性酸素種 (ROS)に応じて、p62(ショウジョウバエホモログはRef(2)Pが遺伝子名ですが、本稿ではp62と表記します)とHippo経路上流因子Dachsが相互依存的に構造体を形成し、オートファジーがこれを選択的に除去していました。また、p62構造体の除去不全はYkiシグナルの過剰活性化を生じさせ、これが細胞非自立的に幹細胞分裂を過剰に促進し、結果として細胞接着不全によるバリア破綻を引き起こすことを明らかにしました。すなわち、p62構造体はシグナルプラットフォームとしてHippo経路不活化を介したROS損傷応答に機能しており、オートファジーはこれを量的に制御していました。驚くべきことに、通常では幹細胞分裂シグナルを活性化させないとされてきた腸内常在菌に対しても、実は宿主はROSを低レベルで産生しており、このROSによって生じるp62構造体のオートファジーによる除去が、慢性的な幹細胞過剰分裂の抑制と、バリア破綻の抑制に重要であることが分かりました。さらに、p62構造体の適切な量的制御は健康寿命(集団寿命の中央値)を規定しており、それは腸管バリア破綻を防いでいるためでした。
本研究では、シグナルプラットフォームとしてのp62構造体の量的制御が、常在菌寛容と老化に伴う慢性炎症の抑制に必須であることを示せたことが、ショウジョウバエならではの成果であると思っています。現在は、ROSによる損傷を感知してp62構造体を形成させるために必須な因子群を同定しており、その機構解析に取り組んでいます。この研究は東日本大震災の後始末中に自分1人でスクリーニングを始め、その後この研究をやりたいと言ってくれた長井君(筆頭著者)の頑張りで多くの新しいことを見出すことができました。特に細胞の頂端領域に細胞接着依存的に形成されるp62構造体は直径2µmもある美しいドーナツ型で(抗体染色ですので、球形で抗体が中まで到達しづらいのか、あるいは中に別の分子がいるのか、はたまたliquidityは、などこれから調べる必要があります)、その形成の不思議な分子機構も今後解明したい点です。