PubMedID 33473217
タイトル Wetting regulates autophagy of phase-separated compartments and the cytosol.
ジャーナル Nature, 2020 Dec 09; [Epub ahead of print]
著者 Agudo-Canalejo J, Schultz SW, Chino H, Migliano SM, Saito C, Koyama-Honda I, Stenmark H, Brech A, May AI, Mizushima N, Knorr RL
  • ウェッティング効果が液滴オートファジー(Fluidophagy)の駆動力になる
  • Posted by 東京大学大学院医学系研究科 千野遥
  • 投稿日 2021/01/28

最近、Nature誌に掲載されました共同著書の論文を紹介させていただきます。
この研究は、マックスプランク研究所のRoland Lutz Knorr博士を中心とした、当研究室を含む日本、ドイツ、イギリス、ノルウェーの国際共同研究です。

選択的基質であるp62は細胞内では他の分子とともに液滴を形成しますが、オートファゴソーム膜がp62液滴を分解する過程において、p62液滴の全体を取り囲む場合と、その一部をちぎり取る場合があることが分かりました。液滴と膜の相互作用の数理モデルを構築し、膜の面積と液滴の表面張力に依存して、液滴の一部をちぎるか全体を囲むかが決まることを予測しました。さらに、試験管内でこの反応を再構成したところ、オートファゴソームを模倣した人工の二重膜が、液滴との相互作用によって変形することを実証しました。これらのことから、液滴をオートファゴソーム膜が隔離する際に、オートファゴソーム膜の曲げ弾性エネルギーに加えて、液滴とオートファゴソーム膜間のウェッティング効果が寄与していることが明らかになりました。オートファゴソーム膜が曲がる方向を決めるには、オートファゴソーム膜上のLC3ファミリータンパク質とp62の相互作用が重要で、この相互作用がないと、p62液滴上で形成されたオートファゴソーム膜がp62を取り囲めず、細胞質を囲んでしまう様子が観察されました。


この研究は、特任助教として当研究室に来ていたRoland Lutz Knorr博士が2年前に始めたものです。
私は、LC3ファミリーに依存しない選択的基質の認識について研究をしようとATG3 ノックアウト細胞でのp62のオートファジー分解を生細胞観察していたところ、p62液滴上にいるオートファゴソームがおかどちがいの方向に向かって伸長している様子を発見しました。オートファゴソームはp62液滴上で形成されるのにも関わらず、LC3非存在下では、取り囲みがうまくいかないということが分かり、選択的オートファジーにおけるLC3の役割が「隔離膜取り囲みの方向性の決定に必要である」ということを再認識することができました。これは最近の小松研の蔭山さんの論文の結果と同じです。Roland Lutz Knorr博士に一緒に論文を書くことを提案していただき、論文化に至りました。今後は、選択的オートファジーにおけるマルチモードなメカニズムや意義の解明したいと思います。